世界の株式相場は、2010年11月を境に新たな局面に突入した。ヘッジファンドを筆頭とする、巨額の運用資金を動かす機関投資家たちの物色動向が大きく変わった結果、「キャペックス相場」が到来したのである。
「キャペックス」とは、企業の設備投資を意味する「capital expenditure」を合成した単語「CAPEX」に由来する。つまり、キャペックス相場は、設備投資関連銘柄が主役となった相場のことである。
キャペックス相場ではどのような企業が注目を集めるのか。海外マネーの動向に詳しいパルナッソス・インベストメント・ストラテジーズの宮島秀直氏が解説する。
* * *
キャペックス相場という新しい相場を招いたのは、米国の経済政策の大転換だ。
従来の政策は、量的金融緩和によって、金融市場を立て直しつつ、ドル安誘導を図り、それによって輸出主導による景気回復を目論むというものだった。しかし、失業率の改善など雇用状況は好転せず、オバマ政権に対する米国民の支持率は低下の一途をたどった。
そこで、2012年の大統領選挙に向けて、オバマ大統領は経済政策の転換を決断、新たな経済戦略は、産業界との関係を修復し、潤沢な手元資金を設備投資に投じてもらい、それを経済成長のメインエンジンにすることになったのだ。
では、キャペックス相場では、具体的にどんな銘柄が物色されるのだろうか?
すでに、次期米国家経済会議委員長が企業よりの人物になるとの噂がでた段階で、ボーイングの株価は先駆けて上昇したが、それにつれて、機体に使われる炭素素材を提供している東レの株価も上昇している。
東レは、1月中旬に、韓国での炭素繊維工場の新設を発表した。日本企業が欧米以外の海外で、炭素繊維の生産拠点を設けるのは初めて。表向きは、パソコン部品向け、中国への輸出拡大が見込めることといった説明がなされているが、背景には、オバマ政権の政策転換があることは言うまでもない。
また、アップル社がiPhoneの主要部品供給メーカーである東芝やシャープに対し設備投資額の一部負担を決定したことを受けて、米系ヘッジファンドなどが両社の株を継続的に買い上げた。昨年11月に東芝の株価が上昇したとき、米国のエンジニアリング大手と米国の原子力発電所建設で協力するというニュースが材料視されたと解説されたが、それだけではシャープが同時に買われた理由の説明がつかない。
キャペックス相場の柱となるセクターは、機械、電子部品(パソコン関連)、自動車部品、航空機用部品と考えられている。いずれも、現在の米国の基幹産業となっているセクターで、その設備投資関連となると非常にすそ野が広い。
日本株では、米国が必要とする設備投資関連の銘柄に資金が流入するはずだ。そこで、海外の機関投資家が重視する、企業のバリュエーション評価の高い日本企業を挙げておこう。
企業の設備投資を成長エンジンに据えた、新しい米国の経済政策が奏功すれば、キャペックス関連銘柄がけん引役となって、米国株も上昇していくだろう。それにつれて、日本株も、9月くらいまでに、1万2000円を超えてくる可能性がある。
●自動車部品セクター
・デンソー ・ブリジストン ・住友電気工業 ・アイシン精機 ・豊田自動織機 ・ジェイテクト ・日本特殊陶業
●電子部品セクター
・村田製作所 ・キーエンス ・日本電産 ・HOYA ・TDK ・イビデン ・ヒロセ電機
●機械セクター
・ファナック ・三菱重工業 ・SMC ・クボタ ・川崎重工業 ・マキタ ・日本製鋼所
※マネーポスト2011年3月号