「A BATHING APE(以下、BAPE)」を手掛け、裏原系のカリスマと称されたNIGO(40)の会社『ノーウェア』が今年1月31日、香港のアパレル小売会社『I.Tリミテッド(以下、I.T)』におよそ2億3000万円で買収された。この時、ノーウェアは43億円にものぼる負債を抱えていたという。その負債をI.Tが担保する形でノーウェアは売却された。
なぜI.Tは、多額の負債を抱えるノーウェアを買い取ったのか。そこには近年の高度経済成長を背景とした中国マネーの存在があるという。中国人はブランド志向が強く、ルイ・ヴィトンやシャネルやグッチといったヨーロッパの高級ブランドや日本のブランドは大きく注目されている。中国に出店するブランドも増え、プラダは今年の5月ごろにイタリア企業では初となる香港証券取引所での新規株式公開をする予定とも報じられている。流通経済研究所の神谷渉さんがこう説明する。
「ブランド志向の強い中国ですが、一方でオリジナルブランドを持つ企業が育っていない現実があります。そのため、中国で人気のある他国のブランドを買収して、自国で拡大、展開したいという思いがあったのではないでしょうか。特に、香港はイギリス領であったからか本土よりもファッションに敏感ですからね」
すでにBAPEは香港や台湾、北京や上海にも出店している。香港在住のジャーナリストは、香港にあるBAPEの店舗についてこう話す。
「香港の店舗はかつての日本のヒルズ族のようなニューリッチたちで大盛況ですよ」
そんな中国マネーの猛威はファッションブランドの買収だけでなく、日本のあらゆるところに及んでいる。今年1月5日に行われた東京・築地市場の初競りで、史上最高額となる3249万円の値がついたクロマグロを銀座の高級寿司店「久兵衛」と共に購入したのは香港の寿司チェーン店「板前寿司」だった。中国に詳しい評論家・宮崎正弘さんはこう説明した。
「中国人にとってマグロは“世界でいちばん高い魚”という意識があります。お寿司を食べることは中国人にとってひとつのステータスなんです。外から見えるガラス張りの寿司店が多いのもそのためです。だからこそ、高級マグロである必要があるのでしょう」
中国の高級志向は、ワインも同様だと宮崎さんは指摘する。中国の食文化にワインを飲む習慣はなかったが、経済成長に伴いワインブームが起きて、ステータスシンボルになっているというのだ。
また日本の土地さえも、近年は中国の富裕層のターゲットになっている。都内の一等地のマンションを投資目的で購入したり、森林買収も急増している。
「中国が求めているのは森林の下にある水源地です。北京では1000メートル掘らないと地下水が出ない上、現在は都市部でなくても汚染がひどく飲み水としては使えません。中国ではミネラルウオーターを飲むのが一般化してきたため、中国本土では供給が追いつかないんです。そこで北海道や岐阜、鳥取などの高品質な水を確保し、ビジネスにしようと考えているのです」(前出・宮崎さん)
※女性セブン2011年3月17日号