日本の虎の子である個人金融資産は1400兆円あるが、この数字はこの10年、ちっとも増えていない。せめて1%ずつ増えていれば、150兆円ものカネがあったはず。その「失われたカネ」の責任の一端が、運用できない素人バンカーたちにある。
銀行には、経済の潤滑油としての役目とともに、国民の資産を運用して増やすという重大な任務がある。
もちろん、健全な企業に融資し、その利息で得られた収益を預金者に還元するのも一つの方法だ。もう一つは、“プロの金融屋”の腕を駆使して世界の市場で資金を運用し、利益をあげるやり方もある。
ところが、「ほとんどの銀行が「資金の運用先」に国債を選んでいる。安全だが金融商品としては利回りが低い。この事実だけを見ても、その能力には不安がよぎる。
調べてみると案の定、日本の銀行がトレーダーとしては素人同然の能力しかないことがわかった。世界の一流金融機関と日本のメガバンク3行が、短期に収益を得る目的で市場で金融商品を売買し、年間どれくらいの利回りを出しているかを比較してみる。
日本の銀行は、昨年3月期でみると、みずほ銀行が3.5%、三井住友銀行が3.1%、三菱東京UFJ銀行は、わずか1.5%である。10年物国債の利回りが1.2%程度だから、こんな運用なら素人でもできるというレベルだ。
もちろん、国際市場でしのぎを削る諸外国のトップ金融機関は違う。それが専門の投資銀行と比べるのはちょっと酷だが、例えばゴールドマン・サックスなどは12.8%もの利回りを叩き出している。日本のメガバンクに近い総合金融グループでも、イギリスのバークレイズ銀行は4.6%だ。
金融ジャーナリスト・小泉深氏はこう指摘する。
「リーマンショック以降は各国の銀行の運用実績にもバラつきが大きいので一概にはいえませんが、日本の銀行が1~3%程度で運用している環境なら、欧米のトップクラスはその2~3倍の収益をあげている。日本の運用技術は、先進国では最低ランクといえるかもしれません」
トレードの世界は、リスクが高ければリターンも大きいのが鉄則。ならば日本の銀行は「安全」に配慮しているから利回りが低いのかというと、そうでもないから救いがない。
大手証券会社社員はこう語る。
「みずほグループが、リーマンショックでデリバティブに失敗して多額の損失を出したように、日本の銀行も結構危険な取引に手を出しています。それでも外国の銀行やヘッジファンドのようなハイリターンを実現した例はほとんどない」――「ハイリスク・ローリターン」という冗談のような運用になっているのだ。
※週刊ポスト2011年3月18日号