3月5日に全国人民代表大会(全人代)が始まり、中国はいよいよ次期リーダー候補と目される「習近平時代」に向けて動き出した。ジャーナリストの相馬勝氏が、習氏と太いパイプを持つ自民党参院議員の金子原二郎氏に、「人間・習近平」について聞いた。
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――習氏の経歴では、外交経験というものがほとんどない。世界の国々はそのあたりに不安を感じている面があります。
金子:「胡錦濤主席にしても、それまでは外交経験があったわけではないし、逆に融和型のリーダーだからこそ心配はいらないんじゃないですか。聞くべき意見はきちんと聞いて、最終的な判断は自分が下すというやり方ですから、経験の有無はそれほど問題にならないと思います。
むしろ日本の総理大臣のように、わからないことでも自分勝手にやって、あとで問題になるほうが恐ろしいですよ(笑い)。リーダーというのは、人を使いこなす能力が問われます。習さんはそういう能力に長けていますから変な外交はしないでしょう。
尖閣問題が起きて、習さんも対日強硬派ではないか、などといわれますが、私がお付き合いしてきた限り、そういう考えを持った人ではないと思います。もちろん領土問題というのは非常にデリケートだし、あちらも13億人の国民の目がある。しかも多民族国家だから、そうそう日本の思うようには動いてくれないかもしれませんが、本質的に日本と対立したいとも思っていないはずです」
――2009年12月に副主席として来日した時に、天皇会見をごり押ししたと批判された。多くの日本人は、「あの天皇特例会見の習近平」と記憶しています。
金子:「ああいうことがあると不幸ですね。おそらく本人がごり押ししたというより、それは次期主席といわれる人ですから、周囲や部下が多少無理をしてでも実現させようと頑張っちゃったんでしょうね。私も知事をやっていたから、そういう内情は想像できます。
よく外交では信頼関係が大事だというけれど、信頼というのは心から相手を歓待する、もてなす気持ちがないと生まれません。私は知事時代に、たとえプライベートマネーを使っても、相手にわかる形で誠意を示すことを心掛けてきた。それは形で示さないとわからないからです。それこそ外交辞令だけでは信頼関係は生まれません。
あの時も、習さんは福岡を訪問する日程があったので、わざわざ連絡をくれて「少しの時間でも会えませんか」というので、私も福岡まで行ってごあいさつしました。私はそんなに習さんと親しいとはいいませんが、そういう人間同士の関係をもっと多くの人が作っていかなければ日中関係もうまくいかないでしょう。
少し前までは、中国から日本に留学する若い人がたくさんいて、日本語を話せる中国人も多かったが、今では急速に日本留学熱も冷めてしまっています。長崎県では中国外務省や福建省、上海市政府から職員を招聘して県立大学に留学させています。そういう取り組みも必要じゃないですか」
※週刊ポスト2011年3月18日号