日本列島に吹き荒れる“英語狂想曲”が、最近ますます勢いを増している。
武田薬品工業は2013年度春入社の新卒採用から英語能力テストTOEIC(990点満点)で730点以上の取得(研究開発部門や管理部門が対象)を義務づけ、三井住友銀行も今年から総合職の全行員約1万3000人に対し、TOEICで800点以上を目指すよう求め始めた。
昨年、楽天やファーストリテイリングが英語を社内公用語化する方針を打ち出して以降、韓国に遅れること10年にして、ビジネス界ではグローバル人材育成の動きが加速し始めている。
国内市場の縮小に伴う新興国市場への進出が不可欠な日本企業にとって、グローバル人材の育成は極めて重要なテーマになっている。だが、企業は、TOEICのスコアを採用や昇進の条件にするのは企業のグローバル化を考える際の形式論でしかなく、しかも入り口の一つに過ぎない、ということを理解すべきだ。
グローバルに活躍できる人材を育てるには、どのような方法やプロセスをとっても、最低20年はかかる。
また、企業のグローバル化は、実際には社内教育の結果ではなく偶然の産物であることが多い。たとえば武田薬品工業では、長い欧米駐在を経験した現在の長谷川閑史社長が、従来の武田の伝統的なやり方では海外の強大な製薬会社に太刀打ちできない、という強い危機感を抱いていたからグローバル化に舵を切れた。
積極的に海外展開している大塚ホールディングスの樋口達夫社長や大塚製薬の岩本太郎社長も、アメリカでの経営経験が長い。つまり、経営トップに「人を得た」企業が、そのリーダーに引っ張られてグローバル化を推進しているというパターンが一般的なのである。
一方、ファーストリテイリングの柳井正・会長兼社長や楽天の三木谷浩史・会長兼社長は、自分自身が海外で経営をした経験がないから、手探りのグローバル化にならざるを得ない。
いわば江戸時代に、誰も見たことがない象を想像で日光東照宮に描いたり、西洋医学を『ターヘル・アナトミア』(『解体新書』の底本となった解剖学書)で勉強しているようなものであり、「日暮れて道遠し」の状態なのである。
※週刊ポスト2011年3月18日号