この4月、共同経営者のひとりとして『まちの保育園 小竹向原』(東京・練馬区)をオープンさせる乙武洋匡さん(34)。自らも2児の父親である乙武さんに、子育てについて話を聞いた。
* * *
基本的にぼくはひとりでトイレには行けないので、妻の介助が必要なんですよね。ということは息子も一緒で一家3人が狭いトイレに結集することになる。毎日毎回妻のその姿を見ていたからだと思うんですが、ある日、息子がぼくのパンツに小さい指をかけ、力いっぱい引っ張って脱がせてくれたんですよ。妻は「自分はおむつなのに、人のトイレの手伝いをする1才児って、まあいないわよね」って笑ってたんですが。
その後も、毎朝枕元に眼鏡を届けてくれるようになり、ひげそりまで手伝ってくれるようになりました。着替える前の5分間が、そのひげそりタイム。息子が「お父さんのひげはぼくがやる」といって電動ひげそりを両手で握って固定してくれるので、ぼくは顔を上下左右に動かして、ちょうどいい場所をあてるだけですむんです。
そこでようやく気づいたんですよ。たぶん障害のない父親のもとで育った1才半もしくは2才くらいの子供なら、こんなに人の手伝いをしようという気にならないのではないかなあと。父親がしてあげられることは少ないけれども、だからこそ彼は彼なりに何かを感じたり、学んでいることもあるのかなあと。そういう意味では、何かを物理的にしてあげるというのが子育てではなくて、こういうぼくの存在、ぼくとのかかわりによってぼくなりの子育てができているのかなあと。
※女性セブン2011年3月24日号