国内

TPP議論 今上天皇が自ら田植えされてることを忘れては駄目

 昨年末、喜寿を迎えられた天皇陛下は今なお精力的に公務や宮中祭祀に励まれている。 天皇の病状を誰よりも心配されておられるのが皇后であろう。今上天皇を支えてこられ、戦後の新しい皇室と国民との一体感をもたらされたのは美智子皇后である。

 昭和五十四年、妃殿下であった皇后が詠まれたお歌がある。

 新嘗のみ祭果てて還ります
 君のみ衣夜気冷えびえし

 ご成婚前に天皇は「皇太子という立場で、公務は一切の私事に優先する」と美智子様に語られたという。この歌は、宮中祭祀の大切さ、貴さを、皇太子妃として歌いつつ、夫としての「君」の「み衣」が夜気に冷く濡れているのを気づかう妻としての心の思いが表現されている。それは妻であり、また母である女性の豊かな情感であり、天皇と共に皇統の歴史を意味深きものとされる、この国の「母」としての責務と自覚である。

 今上天皇は昭和天皇から、父親としての愛情を受け、そして昭和という激動の時代に皇位につかれた天皇として、国家の「父」としての歴史の証言を伝えられた。昭和天皇が敗戦直後の昭和二十一年に詠まれた、

 ふりつもるみ雪にたへていろかへぬ
 松ぞををしき人もかくあれ

 との歌は、国民への励ましと国家の再生を期した御製であったが、それはまさに次の世代へ、希望と期待と忍耐を継承せよとのメッセージであった。平成の皇室が、今国民に伝えようとしているものは何なのだろうか。皇室についてのTVなどの報道は、戦後の「開かれた皇室」ゆえもあって、時に芸能人のスキャンダルめいた興味本位のものになりがちである。しかし、天皇の公務の意味や宮中祭祀の大切さに、むしろこの国の民として思いをはせることの方が本質であり、さらに言えば喫緊の課題ではないか。

 日本文化の国民的特色を、作家の三島由紀夫は「一つの形(フォルム)」であると言った。それは様々な芸術作品だけではなく、行動をも含む動的なダイナミックなものである、と。そして、その全ての日本文化の活動を包括的に映し出しているのが、まさに鏡としての天皇という存在なのだ。TPP問題などで、国内の農業のことがしきりに議論されているが、今上天皇が昭和天皇のあとをつがれて、自らお田植えをされ、この情報化と物質化の社会のなかで「稲」を守られていることを忘れるべきではない。ダイナミックな変化と発展のなかで、この国の文化の神髄としての不変性、一貫性が今日ほど問われているときはないだろう。だからこそ、皇室の行方から目を離せないのである。

文芸評論家/富岡幸一郎

※週刊ポスト2011年3月18日号

関連記事

トピックス

女優の趣里とBE:FIRSTのメンバーRYOKI(右/インスタグラムより)
《趣里が待つ自宅に帰れない…》三山凌輝が「ネトフリ」出演で超大物らと長期ロケ「なぜこんなにいい役を?」の声も温かい眼差しで見守る水谷豊
NEWSポストセブン
活動休止状態が続いている米倉涼子
《自己肯定感が低いタイプ》米倉涼子、周囲が案じていた“イメージと異なる素顔”…「自分を追い込みすぎてしまう」
NEWSポストセブン
松田聖子のモノマネ第一人者・Seiko
《ステージ4の大腸がんで余命3か月宣告》松田聖子のものまねタレント・Seikoが明かした“がん治療の苦しみ”と“生きる希望” 感激した本家からの「言葉」
NEWSポストセブン
“ムッシュ”こと坂井宏行さんにインタビュー(時事通信フォト)
《僕が店を辞めたいわけじゃない》『料理の鉄人』フレンチの坂井宏行が明かした人気レストラン「ラ・ロシェル南青山」の閉店理由、12月末に26年の歴史に幕
NEWSポストセブン
大谷翔平(写真/Getty Images)
《昨年は騒動に発展》MLBワールドシリーズとNPB日本シリーズの日程が“まるかぶり” NHKがワールドシリーズ全試合放送することで新たな懸念も浮上 
NEWSポストセブン
森下千里衆院議員(共同通信社)
《四つん這いで腰を反らす女豹ポーズに定評》元グラドル・森下千里氏「政治家になりたいなんて聞いたことがない」実親も驚いた大胆転身エピソード【初の政務三役就任】
NEWSポストセブン
ナイフで切りつけられて亡くなったウクライナ出身の女性イリーナ・ザルツカさん(Instagramより)
《19年ぶりに“死刑復活”の兆し》「突然ナイフを取り出し、背後から喉元を複数回刺した」米・戦火から逃れたウクライナ女性(23)刺殺事件、トランプ大統領が極刑求める
NEWSポストセブン
『酒のツマミになる話』に出演する大悟(時事通信フォト)
『酒のツマミになる話』が急遽差し替え、千鳥・大悟の“ハロウィンコスプレ”にフジ幹部が「局の事情を鑑みて…」《放送直前に混乱》
NEWSポストセブン
3年前に離婚していた穴井夕子とプロゴルァーの横田真一選手(HP/時事通信フォト)
「私嫌われてる?」3年間離婚を隠し通した元アイドルの穴井夕子、破局後も元夫のプロゴルファーとの“円満”をアピールし続けた理由
NEWSポストセブン
『週刊文春』によって密会が報じられた、バレーボール男子日本代表・高橋藍と人気セクシー女優・河北彩伽(左/時事通信フォト、右/インスタグラムより)
「近いところから話が漏れたんじゃ…」バレー男子・高橋藍「本命交際」報道で本人が気にする“ほかの女性”との密会写真
NEWSポストセブン
小野田紀美・参議院議員(HPより)
《片山さつきおそろスーツ入閣》「金もリアルな男にも興味なし」“2次元”愛する小野田紀美経済安保相の“数少ない落とし穴”とは「推しはアンジェリークのオスカー」
NEWSポストセブン
aespaのジゼルが着用したドレスに批判が殺到した(時事通信フォト)
aespa・ジゼルの“チラ見え黒ドレス”に「不適切なのでは?」の声が集まる 韓国・乳がん啓発のイベント主催者が“チャリティ装ったセレブパーティー”批判受け謝罪
NEWSポストセブン