【書評】『AKB48の経済学』(田中秀臣/朝日新聞出版/1260円)
AKBの経営システムについて書かれた同書について、エコノミストの森永卓郎氏が解説する。
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いまやアイドル界で一人勝ちと言ってよい存在となったAKB48。あまりの人気にグラビアが独占され、仕事を失った高年齢アイドルが次々と結婚へ逃避していると、まことしやかに囁かれるほどだ。
そのAKB48を田中秀臣氏が経済学の視点から斬った。田中氏はリフレ派の論客で、私が尊敬する経済学者の一人だ。その田中氏は、AKB人気の秘密を、デフレカルチャーがもたらした小さな消費だと断じた。人生の大部分をデフレの下で過ごした若者たちは、今後もデフレが続くと信じている。だから、身近なアイドルを、あまりコストをかけずに、自ら情報発信しながら、「心の消費」をしていく。こうしたライフスタイルは、しっかり定着しているため、今後仮に日本経済がデフレから脱却したとしても、変わらないというのだ。
私自身は、AKB48はバブルだと思っていた。1980年代後半のバブルも、東京に遅れて、大阪に波及した後、ほどなくはじけた。だから、大阪にNMB48が誕生したいま、それほど遠くない未来にAKBバブルもはじけるに違いないと読んでいたのだ。ところが、田中氏によると、SKE48やNMB48も、地域アイドルというデフレカルチャーの下での新しいビジネスモデルの創造なのだという。
本書に書かれているのは、ライフスタイルの観点からの分析だけではない。例えば、AKB48を経営面からもきちんと分析している。ネット社会のなかで、一部の勝ち組だけが長期間の利益を独占するようになるなかで、AKB48の経営は、日本相撲協会のシステムと似ているという。この指摘は、目から鱗で、秀逸だ。AKB48の場合、全体の仕事はAKSという統括事務所が仕切るが、個人やサブユニットの仕事は、それぞれの所属事務所が仕切っている。日本相撲協会が相撲を興行し、個々の力士の育成や管理は部屋が行うのと同じだ。その仕組みが、競争の源泉になっているというのだ。
全体として、ちょっと礼賛しすぎかなとは思うが、それだけAKBが魅力的だということだろう。
※週刊ポスト2011年3月18日号