イタリアのビッククラブ、インテルの移籍した長友佑都。長友の活躍の秘密をサッカーをこよなく愛するコラムニスト・小田嶋隆氏が解説する。
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長友がインテルで活躍しているのは、サッカーファンだけではなく、すべての日本人にとって誇れることだ。そしてそれは、長友のピッチ上での活躍だけによるものではない。 彼の人柄である。
異国の地で、選手仲間やメディア、ファンたちの間で、長友はフレンドリーかつ誠実な人間として受け入れられているのだ。
彼は礼儀正しく腰の低い、いたって普通の日本人なのだった。今も明治大学の学生であるかのような若者っぽい、人懐こい雰囲気を醸し出しながらも、メディアとの受け答えは非常にしっかりしていて、発言には時に知性を感じさせもする。就活でも面接官からウケの良さそうなタイプだ。
そうした「普通の日本人」は、ヨーロッパに行っても周りから“いいヤツ”と見られるものだ。
明大時代にケガをして応援団に混じって太鼓を叩いていた状態から這い上がったというサクセスストーリーや、1人で3人姉弟を育ててくれた母親の生活を楽にさせてやりたいと、明大在学中にプロ契約したこと(明大はその後卒業)、父方の祖父の地元である宮崎の口蹄疫被害の時に義援金を送ったなど、長友に関しては我々日本人が応援したくなるような美談が数多くあるが、それを知らないヨーロッパの人間たちから見ても、彼はフレンドリーな“いいヤツ”なのである。
実際、イタリア語はまだまだのようだが、他の選手たちとのコミュニケーションは身振り手振りで取れているという。
そうした「フツーの若者」でもサッカーさえ上手であれば、ヨーロッパのビッグクラブで活躍できるのだというポジティブなメッセージを長友は発している。
2000年代前半に出張や旅行などでヨーロッパを訪れて現地の人と話した方の多くは、「日本から来たのか。ナカタは知ってるよ!」と言われた経験があるのではないか。そのたびに、我々は心の中で、2メートル近くのマフラーを巻いてレイバンのサングラスをかけ、メディアにつっけんどんな対応をしている男を思い浮かべてしまう。
この国を飛び出して活躍するスポーツ選手とは、海外を旅する日本人にとって、いわば“名刺”のようなものになるということだ。
「日本から来たのか。ナガトモは知ってるよ!」
こう言われたら、「ナカタ」に比べて、ホッとするのは私だけではないはずである。
それは、長友が何よりもサッカーのプレーによって評価されているのであり、それも周りの選手とうまく連携しているつまり“オレ流”で世界に認められているのではないからだ。
長友の活躍によって、「日本人離れしている日本人」が良い国際人なのではなく、「良い日本人」であれば良い国際人であるという当たり前のことに、我々は気づいた。そして、サッカー選手だけでなく、世界で活躍しようとする日本人にとっては、「無理に一匹狼になろうと強がらなくてもいいんだな」と勇気をくれる存在でもあると言えるだろう。
※SAPIO2011年3月30日号