スポーツ

小田嶋隆氏 海外では「ナカタ」より「ナガトモ」と呼ばれたい

 イタリアのビッククラブ、インテルの移籍した長友佑都。長友の活躍の秘密をサッカーをこよなく愛するコラムニスト・小田嶋隆氏が解説する。

 * * *
長友がインテルで活躍しているのは、サッカーファンだけではなく、すべての日本人にとって誇れることだ。そしてそれは、長友のピッチ上での活躍だけによるものではない。 彼の人柄である。
 
 異国の地で、選手仲間やメディア、ファンたちの間で、長友はフレンドリーかつ誠実な人間として受け入れられているのだ。
 
 彼は礼儀正しく腰の低い、いたって普通の日本人なのだった。今も明治大学の学生であるかのような若者っぽい、人懐こい雰囲気を醸し出しながらも、メディアとの受け答えは非常にしっかりしていて、発言には時に知性を感じさせもする。就活でも面接官からウケの良さそうなタイプだ。
 
 そうした「普通の日本人」は、ヨーロッパに行っても周りから“いいヤツ”と見られるものだ。
 
 明大時代にケガをして応援団に混じって太鼓を叩いていた状態から這い上がったというサクセスストーリーや、1人で3人姉弟を育ててくれた母親の生活を楽にさせてやりたいと、明大在学中にプロ契約したこと(明大はその後卒業)、父方の祖父の地元である宮崎の口蹄疫被害の時に義援金を送ったなど、長友に関しては我々日本人が応援したくなるような美談が数多くあるが、それを知らないヨーロッパの人間たちから見ても、彼はフレンドリーな“いいヤツ”なのである。
 
 実際、イタリア語はまだまだのようだが、他の選手たちとのコミュニケーションは身振り手振りで取れているという。
 
 そうした「フツーの若者」でもサッカーさえ上手であれば、ヨーロッパのビッグクラブで活躍できるのだというポジティブなメッセージを長友は発している。
 
 2000年代前半に出張や旅行などでヨーロッパを訪れて現地の人と話した方の多くは、「日本から来たのか。ナカタは知ってるよ!」と言われた経験があるのではないか。そのたびに、我々は心の中で、2メートル近くのマフラーを巻いてレイバンのサングラスをかけ、メディアにつっけんどんな対応をしている男を思い浮かべてしまう。
 
 この国を飛び出して活躍するスポーツ選手とは、海外を旅する日本人にとって、いわば“名刺”のようなものになるということだ。
 
「日本から来たのか。ナガトモは知ってるよ!」
 
 こう言われたら、「ナカタ」に比べて、ホッとするのは私だけではないはずである。
 
 それは、長友が何よりもサッカーのプレーによって評価されているのであり、それも周りの選手とうまく連携しているつまり“オレ流”で世界に認められているのではないからだ。
 
 長友の活躍によって、「日本人離れしている日本人」が良い国際人なのではなく、「良い日本人」であれば良い国際人であるという当たり前のことに、我々は気づいた。そして、サッカー選手だけでなく、世界で活躍しようとする日本人にとっては、「無理に一匹狼になろうと強がらなくてもいいんだな」と勇気をくれる存在でもあると言えるだろう。

※SAPIO2011年3月30日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

都内にある広末涼子容疑者の自宅に、静岡県警の家宅捜査が入った
《ガサ入れでミカン箱大の押収品》広末涼子の同乗マネが重傷で捜索令状は「危険運転致傷」容疑…「懲役12年以下」の重い罰則も 広末は事故前に“多くの処方薬を服用”と発信
NEWSポストセブン
『Mr.サンデー』(フジテレビ系)で発言した内容が炎上している元フジテレビアナウンサーでジャーナリストの長野智子氏(事務所HPより)
《「嫌だったら行かない」で炎上》元フジテレビ長野智子氏、一部からは擁護の声も バラエティアナとして活躍後は報道キャスターに転身「女・久米宏」「現場主義で熱心な取材ぶり」との評価
NEWSポストセブン
小笠原諸島の硫黄島をご訪問された天皇皇后両陛下(2025年4月。写真/JMPA)
《31年前との“リンク”》皇后雅子さまが硫黄島をご訪問 お召しの「ネイビー×白」のバイカラーセットアップは美智子さまとよく似た装い 
NEWSポストセブン
元SMAPの中居正広氏(52)に続いて、「とんねるず」石橋貴明(63)もテレビから消えてしまうのか──
《石橋貴明に“下半身露出”報道》中居正広トラブルに顔を隠して「いやあ…ダメダメ…」フジ第三者委が「重大な類似事案」と位置付けた理由
NEWSポストセブン
異例のツーショット写真が話題の大谷翔平(写真/Getty Images)
大谷翔平、“異例のツーショット写真”が話題 投稿したのは山火事で自宅が全焼したサッカー界注目の14才少女、女性アスリートとして真美子夫人と重なる姿
女性セブン
中日ドラゴンズのレジェンド・宇野勝氏(右)と富坂聰氏
【特別対談】「もしも“ウーやん”が中日ドラゴンズの監督だったら…」ドラファンならば一度は頭をかすめる考えを、本人・宇野勝にぶつけてみた
NEWSポストセブン
フジテレビの第三者委員会からヒアリングの打診があった石橋貴明
《中居氏とも密接関係》「“下半身露出”は石橋貴明」報道でフジ以外にも広がる波紋 正月のテレ朝『スポーツ王』放送は早くもピンチか
NEWSポストセブン
女優の広末涼子容疑者が傷害容疑で現行犯逮捕された(写真は2019年)
《体調不良で「薬コンプリート!」投稿》広末涼子の不審な動きに「服用中のクスリが影響した可能性は…」専門家が解説
NEWSポストセブン
現役時代とは大違いの状況に(左から元鶴竜、元白鵬/時事通信フォト)
元鶴竜、“先達の親方衆の扱いが丁寧”と協会内の評価が急上昇、一方の元白鵬は部屋閉鎖…モンゴル出身横綱、引退後の逆転劇
週刊ポスト
女優の広末涼子容疑者が傷害容疑で現行犯逮捕された
〈不倫騒動後の復帰主演映画の撮影中だった〉広末涼子が事故直前に撮影現場で浴びせていた「罵声」 関係者が証言
NEWSポストセブン
男性キャディの不倫相手のひとりとして報じられた川崎春花(時事通信フォト)
“トリプルボギー不倫”川崎春花がついに「5週連続欠場」ツアーの広報担当「ブライトナー業務」の去就にも注目集まる「就任インタビュー撮影には不参加」
NEWSポストセブン
広末涼子容疑者(時事通信フォト)と事故現場
広末涼子、「勾留が長引く」可能性 取り調べ中に興奮状態で「自傷ほのめかす発言があった」との情報も 捜査関係者は「釈放でリスクも」と懸念
NEWSポストセブン