【書評】『全貌ウィキリークス』(マルセル・ローゼンバッハ、ホルガー・シュタルク著/早川書房/1890円)
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〈しわの寄ったジャケットとノルウェーから持ってきたTシャツの奇妙な組み合わせに、下はカーゴパンツ。両足は履きつぶしたスニーカーに突っ込んで、無精髭をはやし、やたらと青白い。白い髪とあいまって、まるでろう人形のように一種厳かな雰囲気さえ漂わせている〉
本書は、ウィキリークスとその創始者ジュリアン・アサンジを追った同時進行型ドキュメントだ。
著者は、ウィキリークスの機密文書公開にも力を貸した、ドイツの週刊誌『シュピーゲル』の記者。各国の首脳(特にアメリカ)を震撼させた大量の機密文書のネット公開。その傍らにいた記者が、まさにその瞬間のアサンジ彼の居所は各国の記者が探していたが、ようとして?めなかったと周辺のドラマをあますことなく描く。
では、アサンジとは何者か。
〈アサンジの異常なまでのエネルギーと知的好奇心、カリスマ性、公の「避雷針」という役割を背負う覚悟がなければ、ウィキリークスは存在しなかっただろう〉
その一方で、ウィキリークスは、アサンジの「ワンマン経営」という問題も孕んでいる、と著者は指摘する。ネット社会ゆえに生まれた組織は、ひとりのカリスマに率いられていたのだ。
本書が明らかにしたことはもうひとつある。国家、既存のメディア、ウィキリークスなどの新メディア、市民……この4つによる「情報」をめぐる戦争の勃発だ。米国はすでに、連邦議会図書館やいくつかの省庁がウィキリークスへのアクセスを完全に遮断するなど、旧ソ連を想起させるような情報隠蔽へと舵を切った。
情報戦争の行く末は? 私たちは今、その闘いの真っ只中にいる。
※SAPIO2011年3月30日号