日本の大新聞は前原誠司・前外相の辞任が残念なようだ。朝日は社説で、〈計25万円の政治献金が「国益が損なわれる」ほどのことだったのか〉と書き、読売は〈献金の在日女性、涙浮かべ「我が子のようで…」〉とお涙頂戴物語に仕立て上げた。だが、前原氏の辞任を“美談仕立て”にすることは決して首肯できない。辞任の真相は、実は「焼き肉屋の献金」ではなく、より深くドス黒い金脈、人脈に追及が及びそうになったからなのである。
前原氏はこれまで数多くの政治資金疑惑にまみれてきた。もともと「クリーン」とは程遠く、そのイメージ自体、大メディアと一部の政治勢力によって作られたものだったのだ。 本誌は同氏が民主党代表時代に秘書給与疑惑を報じた(2005年11月11日号)。前原氏は当時の政策秘書から3年間で1050万円という個人献金の上限(年間150万円)を超える寄付を受け取っていたのをはじめ、夫人を公設第一秘書にして国から給与をもらい、その夫人から政治資金総額2548万円を借り入れていた。
実母を公設第二秘書にしてやはり国から支払われる給料から448万円の寄付を受け、後任の第二秘書からも給与の3割を超える年間171万円の寄付を受けていた。税金でまかなわれる秘書献金を吸い上げる手法だ。
さらに前原氏の党支部や政治団体には「業務委託料」の名目で2004年までに1億円近い出所不明の収入が計上されていた問題も明らかにした。本誌報道を重視した民主党は、顧問弁護士の協力で極秘に前原代表の政治資金を調査する前代未聞の事態に発展した。しかし、民主党は調査結果を一切公表せず、前原氏も責任を取らずじまいだった。「政治とカネ」が大好きなはずの大メディアは、本誌報道を無視した。
その前原氏が、25万円の「焼き肉屋のおばちゃん献金」であっさり辞任を決断するのは奇妙だ。同氏が真に恐れたのは、その前週に発覚した暴力団関係企業からの献金や人脈を掘り下げられることだったと見るべきだ。なぜなら、これこそが前原氏の“政治的正体”に直結する疑惑だからである。
3月4日の参院予算委員会で前原氏の外国人献金を指摘した自民党の西田昌司・参院議員は、前原氏、野田佳彦・財務相、蓮舫・行政刷新相に対する暴力団と関係のある企業グループからの献金を追及した。
件の企業グループは不動産業を中核とし、当時、関東一円に勢力を伸ばしつつあった暴力団A組の資金源でもあった。中心人物のS氏は覚せい剤取締法違反や脱税で摘発された経歴を持つが、前原氏は6~7年前に仲介者を通じてS氏と知り合い、その仲介者を野田、蓮舫氏にも紹介したことを認めた。S氏のグループ企業は2004年5月に脱税で摘発されており、知り合ったのはその頃と見られる。
それらの人脈ができた時期に、前原氏は政治家としてスターダムにのし上がっていく。2005年9月の民主党代表選ではいきなり派閥(凌雲会)を率いて野党第一党の党首に就任し、脚光を浴びた。その後、そうした人脈を民主党内で反小沢派として共闘する野田氏や蓮舫氏に紹介し、共通の「金主」としていった。
※週刊ポスト2011年3月25日号