【書評】『佐野洋子対談集 人生のきほん』(佐野洋子、西原理恵子、リリー・フランキー 著/講談社/1470円)
【評者】与那原恵(ノンフィクションライター)
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乳がんで闘病中の友人から手紙がきて「佐野洋子の本を読みながらガハハと笑っています」とあった。がんだとわかってしばらくしたころ「明鏡止水の心境」と書いてきた彼女が、いまガハハと笑っているのは佐野さんのおかげだとありがたくなった。
佐野さんも、生きるとは死ぬまでのひまつぶしといい、でも〈想像もしなかったような、小さな、くだらないことが、すごくおもしろかったりするじゃん。だから生きてみなきゃ、わかんないんだよね〉と語っている。佐野さんは昨年十一月に他界したけれど、このさきもたくさんのひとたちが佐野さんに出会うだろう。
佐野さんの考え方は個性的でつきぬけていた。なにしろ再婚相手に「あなたには、人から影響を受ける能力がない」といわれたほどなのだから。佐野さんの優しさはわかりやすいものでないけれど、とても細やかだ。そして、まっとうな正直さを貫いたと思う。
佐野さんとの対談をまとめた本書だが、西原理恵子もリリー・フランキーも武蔵野美術大学出身で佐野さんの後輩になる。西原を〈こんな度胸のすわった女は、日本にはこの人しかいない〉と尊敬していたといい、リリー・フランキーは『東京タワー』を読んで感動し、対談が実現した。共通するところもちがうところもあって、佐野さんが真摯に問いかけ、語り合い、それぞれの人生観を互いに引き出してゆく。
テーマは、死、父母や子ども、女と仕事、恋愛と結婚、故郷などなど多岐にわたるが、体験に根ざしたさまざまなエピソードや、そのとき何を感じ思ったかを、この人たちならではの鋭い言葉で語っている。
三人は、兄弟、夫、母など身近で愛しい人の死をまっすぐに見届けたのち、「生」の日々を積み重ねてきた。「ひまつぶし」の方法は千差万別だが、他人任せにできないところが人生の妙味だろう。読みながら驚き、大声で笑い、しみじみと悲しみが迫るのだが、読後は晴れやかな気分になった。
※週刊ポスト2011年3月25日号