中近東・北アフリカ各国ではドミノ倒しのように「ネット革命」が広がった。世界経済を牽引する中国でも厳戒態勢が続く。市場では、地政学的リスクを読んで原油や資源、食糧などの価格が高騰し、マネーの流れが激変している。これから世界経済はどう変わるのか。週刊ポスト2月4日号で大胆な予測を打ち立てて大反響を呼んだ「経済の千里眼」菅下清廣氏が読み解く。
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世界は政治的・経済的に3つに色分けすることができます。まずは日米欧など先進国で構成される第一世界、BRICs(※)など新興国を中心とした第二世界、そして中東やアフリカのように、先進国の技術やサービスが最後に伝わる第三世界です。今回はこの第三世界で「ネット革命」が起きたわけですが、いずれは第二世界、特に統制国家である中国やロシアに伝播することは、ほぼ間違いないでしょう。
中近東・北アフリカの動乱は、ネットによる情報伝播に注目が集まっていますが、それは引き金にすぎず、民衆を動かした本当の原因は食糧価格の高騰です。例えばリビアでは、民衆はパンを満足に食べられないのに、カダフィのファミリーだけが贅沢な暮らしをしていた。ネットにより民衆がそれを知ったことが、この騒乱を起こしたのです。
中近東・アフリカには同じ状態の国がたくさんありますから、この現象が広がることは避けられません。皮肉なことに、第三世界には資源国や農業国が多く、今回の動乱で生産が滞り、むしろ資源や穀物の世界的な価格高騰は加速するでしょう。そうなると、13億人分の食糧を確保しなければならない中国など、第二世界にも大打撃です。民衆が暴発する危険も高まります。今の異常な警戒ぶりを見れば、中国共産党首脳も内乱の危険性を十分に把握していることがわかります。
そして、第二世界に動乱が波及すれば、世界経済にはますますインフレ圧力が高まり、それは特に経済基盤の弱い途上国や新興国を苦しめるという「負の連鎖」を招きます。第二世界に政変リスクが出現したことにより、世界のマネーの流れも変わりました。中国やインド、ブラジルなど新興国にお金を回せば儲かるという手法に警戒感が出てきた。そしてマネーは、安全な日米欧などの第一世界へ回帰すると見ています。
そうなると、国際的な投機資金の流出と食糧の高騰で、世界経済を牽引してきた中国経済の失速は避けられません。株式や不動産市場をソフトランディングさせられればいいですが、最悪の場合、バブルの崩壊、資産の大暴落というシナリオも考えられます。
中国政府は民主化を進めて対応しようとするでしょうが、20 12年の習近平への指導体制の移行までは方向性を明示できない。今後1年間の過渡期で、中国経済は不安定になると思います。
(※)BRICs/近年、経済成長の著しい新興国のこと。ブラジル、ロシア、インド、中国の4か国の頭文字を並べて名付けられた。
※週刊ポスト2011年3月25日号