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親バカ金正日と金正恩新体制で北朝鮮の公開処刑が3倍に増加

 金正恩が三代目後継者にほぼ決定したといわれる2009年末から、北朝鮮の公開処刑が3倍に増加した。これは金正恩によって、父親・金正日よりもさらなる恐怖政治が強行されることを意味する。世界からますます孤立する暴走国家の深層に、関西大学経済学部教授の李英和氏が迫る。

* * *
 まずは公開処刑の実態から見ておこう。北朝鮮では、貨幣改革(デノミ政策=09年末実施)の失敗直後から、公開処刑が激増している。

 前後の1年間を比較すれば、実に3倍強にも達する(16人→52人)。実施件数もさることながら、それより問題なのは公開処刑の罪状である。相次ぐ経済失政への不満と反発が高まるや、北朝鮮当局は死刑の適用対象を拡張し、なおかつ公開処刑を大幅に拡大したのである。

 2008年3月には刑法の付則を改悪して、死刑対象を従来の5種類(国家転覆罪・祖国反逆罪など)から、一般刑事犯と経済犯を含めた21種類に拡大した。さらにデノミ失敗の直後からは、布告文や指示文を通じて「外貨不法流通時の死刑執行」(2009年12月)や「携帯電話を通じた秘密漏洩時の銃殺」(2010年3月)を発表している。その結果、多種多様な罪状で公開処刑が幅広く実施されるようになった。

 なかでも目立つのがデノミ関連の多さである(11人=約20%)。しかも対象者は「貨幣改革関連の示威」(批判のビラまき=6人)と「貨幣改革の失敗責任」(労働党と政府の幹部=5人)に二分される。つまり、国民による批判・抵抗活動の封じ込めと、政治的粛清による権力闘争の手段という両面性を帯びていることがわかる。

 その他にも、携帯電話に絡んだ「脱北幇助と機密漏洩」が6人。きわめつけは地下教会の信者3人が「キリスト教の布教」の罪名で公開処刑されたことだ(平安南道平城市内、2010年5月)。前者は情報統制をめぐり、後者は思想統制をめぐり、国民と当局の攻防戦が激化していることを物語っている。

 無謀な貨幣改革(デノミ)を主導したのは金正日と金正恩の父子である。筆者が当時入手した内部情報によれば、金正日が「正恩を大目に見て成功させてやってくれ」と言って強行実施した。そうして「反抗する者があれば無慈悲に踏みつぶせ」と秘密警察に命じた。その結果、金正恩の大失策を大目に見て、その身代わりとして自分に忠実な党幹部らを公開銃殺した。その返す刀で、反抗する国民を次々と捕まえては無慈悲に公開処刑している。

 この公開処刑の実態から、金正恩の人物像が窺い知れる。自分自身の失態を平気で身内と国民に責任転嫁して乗り切ろうとする。父に勝るとも劣らぬ残虐卑劣な暴君タイプである。底なしの経済破綻が続けば、暴君の資質を全面開花させそうな勢いである。

 暴走に次ぐ暴走のあげく、北朝鮮経済は中国依存を深めてきた。しかし、よほどのことがないかぎり、中朝両国の経済関係はこれ以上の拡大を望めない。現状維持も困難である。たしかに、中朝貿易は年々の拡大基調を見せている。その一方で、北朝鮮は毎年7億~8億ドル規模の貿易赤字を垂れ流してきた。それでも今まで貿易を続けてこられたのは、韓国の太陽政策のおかげである。

 金大中・盧武鉉の両政権が北朝鮮に与えた経済支援は、現金と現物を合わせ、10年間で約70億ドルの巨額にのぼる。年平均で約7億ドルになる。ちょうど中国との貿易赤字と同額になる。ところが、李明博政権の誕生で、この「打ち出の小槌」(太陽政策)が消えてしまった。

 そこで今年になって、北朝鮮は韓国に対話攻勢を仕掛けた。延坪島無差別砲撃の蛮行を引き起こした2か月後のことである。厚顔無恥は承知の上で、経済支援の再開を狙った苦し紛れの提案だった。

 ところが、北朝鮮は自分から提案しておきながら、会談の最終日に態度を豹変させ、対話の席を一方的に蹴った。喉から手が出るほど欲しいはずの経済支援を自分から棒に振ってしまったのである。これからどうやって生き延びていくつもりなのか。誰もが北朝鮮の真意をいぶかった。

※SAPIO2011年3月30日号


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