この4月から、政府による製粉メーカーへの輸入小麦の売り渡し価格が18%引き上げられることになった。早ければゴールデンウィークには、食卓にその影響が及ぶだろう。
丸紅経済研究所の柴田明夫代表は、「現在の高騰は一時的なものではない。我々は食糧価格のステージが変わったことを認識すべきだ」と指摘する。
* * *
食糧価格の高騰に対して、このまま日本が無策なら、食卓に並ぶあらゆる食品の価格が、現在の5~10倍になる可能性さえある。
たとえば、現在スーパーでは、和牛ロース肉が100g当たり600~1200円くらいで売られているが、これが100g当たり3000~1万円以上になったり、同じく100g当たり200~300円の国産の豚肉のロースが1000円になったり、1杯200円ほどのコーヒーが1000円になる――そんな日が訪れてもおかしくないのである。
というのも、国際マーケットでは穀物を中心とした食糧やその他商品の価格が、今後、天井知らずで上昇する可能性を否定できないからだ。
トウモロコシや大豆が中心となる家畜の飼料代は、コスト全体の少なくとも3割。畜産農家によっては6割以上に及ぶケースも多い。また、穀物価格が上昇する時には、それに連動する形で原油など他の商品の価格も上がることが予想される。畜産や養殖水産業では、飼料だけではなく燃料費などあらゆる面でコストが増大する。
このように、穀物だけではなくその他商品の価格上昇の相乗効果によって、食品の小売価格が数倍になることが考えられるのである。
特に注視すべきは、“エサの王様”と言われる「トウモロコシ」の今後の動向である。トウモロコシが21世紀の食糧バランスを左右すると言っても過言ではない。
トウモロコシの世界の総輸出量の6割を占めるのは、米国である。その米国では、2005年からトウモロコシを原料とするバイオエタノールの増産に本腰を入れ始めている。今では総生産量の35%強がバイオエタノール生産に充てられ、逆に輸出に回るトウモロコシは15%以下に減少した。オバマ大統領が始めた「グリーン・ニューディール」政策によりその傾向はさらに強まり、数年後には生産量の10%程度しか輸出されないとも指摘されている。
さらに、かつて米国に次ぐ世界第2位のトウモロコシ輸出国だった中国が、国内で爆発的に増えている需要を賄いきれず、輸入国に転じた。
「エネルギー市場vs食糧市場」と「先進国vs新興国」の2つの争奪戦が起こり、トウモロコシの需給はますますタイトになるだろう。特に“爆食”中国のトウモロコシ需要は、市場に巨大なインパクトを与え続けることになる。
トウモロコシと並んで、「大豆」の未来も揺らいでいる。
大豆の生産シェアは、米国、ブラジル、アルゼンチンで8割。輸出シェアとなると、実に92%にのぼる。つまり、大豆は“プレーヤー”が限られた不安定な市場なのである。
需要の伸びも著しい。
大豆は大きく分けて、食用と飼料用(大豆カス)としての需要が増えているが、ここでも中国の存在と成長が影を落としている。
2000年に1000万tを超える世界最大の大豆輸入国となった中国では、過去10数年で食用・飼料用としての大豆消費は約3倍にまで急増した。この爆発的な需要に、限られたプレーヤーによる大豆生産がどこまで対応できるか。楽観できる状況にはない。
※SAPIO2011年3月30日号