マグロ船と日本企業には多くの共通点があるという。『マグロ船仕事術』の著者、齋藤正明氏(34)が語る。
「終身雇用の時代と比べて人材の流動性が高まったとはいえ、ダメ社員を簡単にクビにはできませんし、不景気で社員をたくさん採用することもできません」
マグロ船は日々荒波にさらされているが、日本企業も市場の急激な変化で気を抜くと足をすくわれかねない。長時間勤務を強いられる労働環境も似ている。
「マグロ船も日本企業も、限られた人的資源をいかに活用するかが文字通り浮沈の鍵を握ります」
齊藤氏が仕えた船長は部下とのコミュニケーションに独特の哲学を持っていた。
「部下にかける言葉を『贈り物』だと考えていました。多くの企業では、上司が部下と言葉を交わす目的は、【1】状況を説明する、【2】指示や命令をする、【3】ミスをしたら怒る、がほとんどです。しかしマグロ船では、【1】自信をつけさせる、【2】部下の働きを認めほめる、【3】アドバイスをする、がすべてでした」
齊藤氏に乗船命令を出した上司も部下を怒鳴りつけることが日常茶飯事だった。
「多くの管理職は、過去の経験をもとに部下と接します。しかし今の20代は、社会人になるまで目上の人との上下関係を築いたことがほとんどなく、同世代との水平関係しか経験がありません。厳しく叱られてやる気が出る人はもはやいません」
船長は「若ぇ人たちには、金はよーやれんようになっちょーが、『言葉』やらはいくらでもあげられるけんのー」と語っていた。多くの給料を払えなくなっているのはマグロ船も企業も同じ。つまり企業のリーダーも部下の存在を認めるような言葉をかけて、やる気を高めないといけない時代なのだ。
※週刊ポスト2011年3月25日号