とあるマグロ船での出来事――ある日の漁でサメが連続で揚がっていたとき、一人の船員が右足を噛まれた。長靴に穴があいたが、足は奇跡的に無傷。他の船員から歓声があがったが、船長の怒鳴り声が響いた。
「一体何やっとんじゃ! せっかくうまくさばけるようになったおまえがここで怪我しよったら、みんなが困りよろうが!」
口調は厳しくても、必要とされていることが伝わる叱責だった。部下との会話を終わらせる際に、相手の感情に嫌なものを残さないようにするため、叱る言葉を褒める言葉でサンドイッチすると効果的だという。
なかなか成長しない部下に対してもどかしさを抱くのも禁物だ。『マグロ船仕事術』の著者、齋藤正明氏が語る。
「マグロ船上では人間関係や雰囲気が重要です。部下に期待しすぎると、部下の未熟な部分やミスに対して期待を裏切られた気分になり、ついイライラしてしまいます。そのストレスが周りに伝染し、結果的に組織のパフォーマンスが落ちることになりかねません」
数年前には、あるマグロ船で船長が刺殺される事件が起きた。発端はタバコをどこで吸うかという些細な問題。話せば相手はわかってくれるという思い込みが原因だという。「マグロに話しかける気持ちくらいがちょうどいい」が齊藤氏が師と仰ぐ船長の哲学だ。
●組織の浮沈の鍵を握る「マグロ10則」
【1】 部下の能力を認める言葉をかける
……上司に技能があっても部下に好かれなければ組織は動かない
【2】部下の考え方や生き方に関心を持つ
……部下の話を聞いてやらないと、上司の指示は聞いてもらえない
【3】「人は指示通りに動かない」を前提に
……想いが伝わると思うから人間関係は壊れる
【4】部下の意見にはとりあえず「なるほど」
……部下のアイデアも数多く聞けば光るものに出会う
【5】売り上げ目標に振り回されない
……目標に届かないときに犯人捜しをせず、やり方を修正する
【6】部下に期待しすぎない
……未熟な部下にイライラするとその雰囲気が組織に伝染する
【7】船長が前向きだと船は沈没する
……危険を察知する後ろ向きの考え方が組織を守る
【8】部下の成長した点を具体的に伝える
……できていないところだけ指摘すると部下の士気が下がる
【9】叱るときには「期待していた点」を指摘する
……叱る言葉が激励の声に変わり、部下のやる気が増す
【10】注意する言葉は褒める言葉でサンドイッチにする
……相手の感情に嫌なものを残さないことが肝要
※齋藤正明著『マグロ船仕事術』より抽出して編集部作成
※週刊ポスト2011年3月25日号