チュニジアからエジプト、そしてリビアへと飛び火した中東連鎖争乱。フェイスブックなど新メディアがもたらした新しい形の民衆蜂起であると報じられているが、それはあくまで表面的な分析にすぎない。
外務省の元アジア大洋州局北東アジア課課長補佐で、国際情勢に精通する原田武夫氏が、中東政変の「真実」を語る――。
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世界の覇権を握っているのがアメリカであることは疑いのない事実です。しかし、相対的に弱い地域がある。それが北アフリカと中東の地中海沿岸で、ヨーロッパ諸国がいまだに強い影響力を保ち続けているのです。
そんな状況下で、今回、中東に争乱の連鎖が巻き起こった。チュニジア、エジプト、そしてリビア、バーレーン、イエメン。奇しくも、いずれも英仏をはじめとするヨーロッパ諸国と特につながりが深い国々です。
かつてこの地域は欧州諸国の植民地だった。それゆえ現在においても、利権の面ではヨーロッパ諸国が米国を凌ぐ利権を得ている。
とくにフランスは、レバノン、シリア、アルジェリア、チュニジア、モロッコなど、1940~60年代にかけて相次いで独立した諸国の旧宗主国として、これらの国々に対して強い影響力を持っている。
チュニジアをはじめとするこれら旧植民地はもちろんのことですが、フランスは元イギリス領であるエジプトともつながりが深い。フランスのフィヨン首相は、昨年末から今年にかけてエジプトを訪れた際、ムバラク大統領の自家用ジェットで遺跡巡りをするなど、政府丸抱えの接待を受けていたことが判明しています。
一方、現在混乱の渦中にあるリビアは、かつての宗主国であるイタリアとの関係が深い。産出する原油の32%がイタリアに輸出されるなど、原油のほとんどはヨーロッパへと流れる。対する米国への輸出はわずか6%に過ぎません。
米国発の「フェイスブック」に端を発するといわれる一連の民衆蜂起ですが、そうした表層的な理解ではこの争乱の本質は見えません。米国はこの争乱を機に、中東・北アフリカ諸国のヨーロッパ利権を引き剥がそうと既に動いているのです。
例えば親米国家のはずのエジプトで、米国は反体制派の争乱を容認しました。なぜか――実はムバラク前政権下のエジプト経済にはフランスのラファージュという軍需関連コンツェルンが深く入りこんでいたのですが、今回の政変でムバラク政権が倒れ、スレイマンが副大統領に就任しています。彼はCIA(米中央情報局)のエージェントともいわれる人物で、米国から見れば「協力者」といっていい存在です。
つまり今回の政変によって米国は、フランスを押しのけ、エジプトとの関係をより強固なものにすることに成功したのです。
※週刊ポスト2011年3月25日号