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会社員男性 女性を救い電柱に30分間登って大津波から避難

 秋田市で仕事で岩手県釜石市を訪れ被災した会社員のTさん(37)。3月11日の東北関東大震災の直撃を受けたのは、釜石市に近い大槌町にあるコンビニに車を止めたときのことだった。

「かなり激しい横揺れを感じたんです。車に乗っているから強く感じるのかな、と様子を見ていたんですが、コンビニは停電して店内からみんな大慌てで出てきて、これは“ただごとじゃない”と思いました」

 急いで車のラジオをつけると、津波警報が出されていた。「地元ではないので、どの方角に逃げればいいかなんて、わからない。イチかバチか、車で釜石方面を目指しました」

 相次いで起こる余震で、橋を渡る際にはかなり揺れたという。Tさんはハザードランプをつけながら、慎重に車を進めた。

「止まるか止まらないかのスピードでとにかく、まっすぐ運転することだけに集中しました」

 地震はそれほどの揺れだった。消防車や救急車のサイレンがけたたましく鳴り響き、振り返ると後方の沿岸側から濁流が押し寄せているのが見えた。これはまずい、とTさんは携帯電話と財布を持って、渋滞にはまっている車を捨てて飛び出した。この一瞬の判断が大きかった。

「海と反対側へ一目散に走っていきました。波はみるみる押し寄せてきて、川と道路の境がなくなってしまって…。とにかく波にのまれないように近くにあったフェンスによじ登ろうとしたんです。でもうまくいかなくて電柱にしがみつきました。もう水かさは腰のあたりまできていたけど、スマトラ沖の大地震による津波のニュースで電柱に登って奇跡的に助かったっていう人の話を思い出したんです」

 そんなとき、Tさんの横で「助けてー!」と叫ぶ40代の女性の姿が。

「とにかく女性の手を掴んで何とかたぐり寄せました。抱え上げることはできなかったので、電柱にまず私が登って、こうすれば登れるから、と手を貸しました」

 電柱の上からの光景は先ほどまでとは全く別のものだった。釜石道路はもうなくなり、車や木材などが流されていく。

「地震からそこまでで30分くらい。けど、電柱につかまっていた時間は1時間にも2時間にも思えました。後でわかったんですが、乗っていた車は50メートルも上流に流され、マイクロバスの下敷きになってました」

※女性セブン2011年3月31日・4月7日号

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