こんな時だからこそ、自分たちの力を信じよう。
こんな時だからこそ、希望を持って前を向こう。
こんな時だからこそ、他人のためにも働こう。
未曽有の大災害で貴い命を失った方々を悼む気持ちは日本中が共有している。今はまだ「祈りの時」であるというのも正論だろう。しかし、これだけの国難であるからなおさら、一日も早く、力強く立ち上がる勇気と決意も必要ではないだろうか。
世界が日本を称賛している。烈震に耐えた数多の人と建物。パニックの中でも助け合って行動し、多くの命が救われた奇跡。堪え難い苦難と悲しみの避難生活でも、秩序と思いやりを失わない強い心。そして、幾度となく焦土の中から蘇り、誇るべき国土と国民を育んできた驚嘆の歴史――。
戦争で焼け野原となった東京、広島、長崎、沖縄はじめ多くの街。大震災にずたずたにされた神戸。その光景は、誰もがはじめは「もう二度と、あの街明かりは戻らないだろう」と諦めかけた。しかし、わずか数年後には、それまで以上に美しく力に満ちた街並みが復活したのである。今、目の前にある危機も、克服できぬはずはない。
地震発生時に客で一杯だったレストランには、震災後、料金を払いに戻ってくる被災者が相次いだ。並べて論じる不敬を承知でいえば、江戸時代、明暦の大火で起きた「切り放ち」の逸話もある。牢役人・石出帯刀は、迫り来る火を前に、囚人たちに「必ず戻れ」と言い渡して牢を解き放つ。
数日後、全焼した牢の跡に、一人も欠けずに囚人が戻ってきたという有名な美談である。
日本人には、世界に誇る高いモラルと、勤勉と、忍耐がある。もちろん、技術も経済力もある。失われた命は戻らないけれど、その死にも、国を復興させる意味と力があるに違いない。教訓を活かし、決して諦めずに前に進もう。もっともっと美しい東北の港町と、強い経済と、そして災害に負けない暮らしを作り上げることこそが、真に大災害に打ち勝つことになるのだから。
※週刊ポスト2011年4月1日号