大震災に見舞われ断水が続いた仙台市西部の住宅地に本誌記者が取材に行った。
飲料水は配給車の行列の末に辛うじて確保できたものの、懸案となったのはトイレの水をはじめとする生活用水だった。
「貴重な飲み水を使うわけにはいかないから、みんな排水溝や小川に流れている水をバケツで汲んで利用していた。多くの家が一家総出で泥水を汲んでいましたが、運べる量には限界がある」(住民のひとり)
多くの住人で配水管を共有する大型のマンションでは、この問題はとりわけ深刻だった。
そんな中、あるマンションでは、住人たちが呼び掛け合って対応策が話し合われた。
「ある住人の方から、“使う水をできるだけ少なくするために、大便を流す前に便器の中で細かくほぐすといい”という提案があったのです。よく聞くとその住人は16年前の阪神・淡路大震災で被災した経験があるという。最初はみんな“えっ?”という表情だったが、使う水の量が格段に減ることを説明され、みんなで徹底しようということになったのです」
そこで重宝されたのが料理に使う菜箸だった。住民たちは前日まで料理に使っていた菜箸で便を細かく砕き、汲み置きの水を流し込む。普通のトイレでは1回の洗浄に約10リットルの水を要するが、この方法ならばその半分以下の水で流せたという。
断水が続く中で住人たちが出し合った知恵。テレビの記者たちは、「被災者の皆さんはトイレ問題で困っているんです」と、レポートを繰り返していたが、ただ茫然としていたわけではない。
※週刊ポスト2011年4月1日号