大地震による計画停電の影響で運行数を減らした首都圏在来線。ターミナル駅となる新宿、池袋、渋谷のラッシュ時の構内は、人で溢れかえる。そして、その雑踏を縫うように募金スタッフたちは優しく声を掛けていた。
「東日本大震災の募金です。ご協力を御願いします」
常ならば素通りする通行人も不測の事態とあって財布から小銭を取り出す。なかには千円札や五千円札を投じる人もいるようだ。相互扶助を尊ぶ日本人ならではの光景――。
が、その寄付が被災者支援に直結するとは限らないことをご存じだろうか。
悪徳商法問題に詳しい紀藤正樹弁護士が解説する。
「こういった大災害の後には、活動実績のない団体の募金運動が必ず出現する。けど彼らの言葉を鵜呑みにするのは危険です。なかには詐欺団体が紛れ込んでいて、募金詐欺の被害が多数報告されている。被災者支援どころか、詐欺集団や新興宗教の資金源になっていることもあるのです」
特に注意すべきは冒頭に示したように移動しながら、積極的に通行人に声をかけてくる団体だという。スタッフにノルマが課せられていることが多く、悪質なものではアルバイトを雇い大々的に募金詐欺を行なっているケースすらある。
当然、集まった寄付金が被災者に届くことはない。 紀藤氏はこう注意する。
「募金をする際には団体名が有名で連絡先が明確、そして使い道がはっきりと明示されているかをしっかりと見て、最終的な判断をしてください」
街頭募金は自治体に申請するだけで誰でも行なえる。被害者がいつ、どこで、いくら寄付したのかということが特定されづらい。少人数でやっているうちは、内部告発がない限り逮捕に至らないのが現実だという。
紀藤弁護士がさらに続ける。
「募金詐欺じゃなくても募金した金額が全て被災者に渡る活動はなかなかない。有名な募金団体でも収支をみると集まった募金10数億のうち実際の支援先には6割ほどしか届いていなかった。募金事業には人件費などの経費が膨大にかかるので、どうしても組織運営費に回されてしまいます」
最近では、インターネットによる募金詐欺など巧妙な手口も増えている。“善意”が踏みにじられないように心したい。
※週刊ポスト2011年4月1日号