【書評】『地下鉄は誰のものか』(猪瀬直樹著/筑摩書房/777円)
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東京には東京メトロと都営の2つの地下鉄がある。そのせいで、例えば、九段下駅では壁1枚隔てて両者のホームが接しているにもかかわらず、乗り換えるには階段を上って2度改札を通らなければならない。料金も2回取られる。
メトロの株主は国と東京都で、都営はもちろん都の運営だ。それなのになぜ一元化できないのか。著者は、既得権にしがみつく人間がいるからだと指摘する。
メトロの経常利益は700億円にのぼり、余剰金は2100億円に達する。その一方で、駅のバリアフリー化や車イス対応トイレの設置などで都営や他の鉄道に出遅れている。その上、料金の値下げもしなければ、都営との乗り換えで利便性をはかる努力もしない。
では、利用者に還元されなかった利益はどこへ消えていくのか。
〈地下鉄事業と関係のない不動産を一等地に持っていて、子会社がオフィスビル賃貸やゴルフ練習場運営をやっている。子会社12社の役員41人のうち、39人がメトロ本体からの天下りです〉
年間平均給与もメトロは790万円で、他の関東の大手私鉄と比べて頭ひとつ抜けている。
本書の主張は極めて明快で、利便性向上のため「メトロと都営の経営を一元化せよ」という。以前、一元化には都営の赤字体質と莫大な債務が問題視された。しかし著者は、都営は新線投資のタイミングが遅かったから黒字化が遅れただけで、債務圧縮も進んでおり、2006年度からは黒字化し借金返済の体力もあると反論する。
著者の東京都副知事という立場のせいか、都営寄りの主張と感じる部分もあるが、かつての道路公団にも似た、利権に安住するメトロの実態を知ることができる。
※SAPIO2011年3月30日号