竹下正己弁護士の法律相談コーナー。今回は、「休日に自宅で仕事をしたのですが、時間外勤務は認められませんか?」と、以下のような質問が寄せられた。
【質問】
急に忙しい仕事が舞い込み、勤務時間内だけでは終わらなかったため、自宅に持ち帰り、土日の休日に作業をしたのですが、このような場合、時間外勤務として認められないのでしょうか。また、ファクスなどの通信費や印刷代は請求できますか。自宅で業務を行なった場合についてアドバイスをください
【回答】
残業時間とは、所定の1日の労働時間を超過した時間ですが、あくまでも労働時間です。この労働時間とは、使用者の指揮命令下にある時間をいいます。労働者の行為が、使用者の指揮命令下に置かれたものだと評価できるかどうかによって、客観的に定まるものとされています。
例えば始業前の更衣、体操なども職場で行なうことであり、使用者の指揮命令の下であるといえます。この場合、重要なのは、労働者が時間だけでなく、場所的にも拘束されているということです。待ち時間や、いつでも緊急対応するための夜勤中の仮眠時間なども、労働時間です。
しかし、労働時間を規制するのは、自由のない、拘束時間を限定することも狙いですから、自宅で仕事をしたというだけで労働時間ということはできません。ですが、上司の命令であれば、残業と考えることができます。上司の指示や許可を得て自宅に持ち帰っての仕事であれば、一定程度の成果を出さなくてはならないという心理的抑圧の下で働くのですから、残業と考えることができます。
ただし、その場合でもむずかしいのは残業時間の計算です。上司と話し合って決まらなければ、ファクスの送信時間や奥さんの証言などで証明するほかありません。もし上司が知らないうちに、単独の判断で自宅に仕事を持ち帰った場合には、残業代の請求は無理です。
とはいえ微妙なのが、上司の黙認が慣行化しているような場合です。残業代の請求はできると思いますが、黙認の慣行を立証するのは大変です。やはり、上司の許可を得るべきでしょう。通信費等の経費は、会社で仕事をしていても必要であったものについては、会社の費用を立て替えたことになりますから、会社に実費の請求ができます
※週刊ポスト2011年4月1日号