原発事故では、通常のレベルにとどまらない被曝が起きることがある。周辺住民にまで高いレベルの被曝が及ぶ最悪の事態もあり得る。そうした例で、どれだけの被曝で、どれだけの健康被害が出たか紹介する。
最初に、福島原発事故のオペレーションに参加した「決死隊」については、発表されている通り、いまのところ健康被害はごく一部を除いてそれほど心配はないだろう。最も多く被曝したのは、3月24日に被曝した作業員3名で、被曝量は170~180ミリシーベルト。
また、ずっと原発に留まって作業している東京電力の社員数名が、政府が定めた緊急時の被曝限度である100ミリシーベルトを超えている(現在は緊急事態なので限度が250ミリシーベルトに引き上げられている)。国際放射線防護委員会は緊急時の限度を500ミリシーベルトとしている。
その他の決死隊は、放水作業で賛辞を受けた東京消防庁の部隊が最高27ミリシーベルト、自衛隊もほぼ数ミリシーベルト、多くても数十ミリシーベルトなので、これは自然放射線や医療放射線と大差ない被曝量といえる。
100ミリシーベルトを超えると、健康被害の可能性が出てくるとされるので、これを超えた東電職員については、交代させる決断も必要かもしれない。
なお、一般の職業でも少量の被曝をしながら働いている人は多い。医療関係者は平均年間0.29ミリシーベルト、建物の非破壊検査などビジネスで放射線を扱う人は0.06ミリシーベルト、研究教育で使う人と獣医療関係者は0.02ミリシーベルト被曝する(線量測定大手の「千代田テクノル」の測定結果)。
また、航空機のパイロットは最大年間5ミリシーベルトと、一般の職業ではかなり被曝しているし、原発職員もおよそ1~2ミリシーベルトくらいだ。
「一般の職業」といえるか疑問だが、宇宙飛行士は宇宙ステーションに滞在すると1日で1ミリシーベルトも被曝するので、半年滞在すれば、今回の事故処理に従事した東電職員より被曝量が多くなる。
実際に放射線で死亡するのは、さらにその10倍以上の被曝量からの問題であり、がんの発生率も、宇宙飛行士や決死隊の被曝量であれば、過去のデータから問題ないとされる(少量の被曝でもがん発生率が上がるという説もあるが、それだと自然放射線の多い地域でもがんが増えないことは説明できない)。
※週刊ポスト2011年4月8日号