企業経営の現場で、この10年、急速に問われ始めたのがCSR(Corporate Social Responsibility=企業の社会的責任)である。はからずも、今回の大震災は日本の大企業の姿勢が如実に示されるまたとない機会となっている。
ユニクロを運営するファーストリテイリングは14日、総額14億円の寄付、そしてヒートテック30万点など7億円相当の支給品を被災地に贈ることを表明した。寄付金に柳井正会長の私財10億円が含まれるということもあって、大きな話題を呼んだ。被災地支援を模索しながらも表明に遅れをとった、流通大手の幹部は臍を噛む。
「うちは社内で様々な意見を集めた反面、計画発表が遅れてしまいました。株主からは柳井さんを引き合いに出して『何でおたくは支援しないんだ』という厳しい指摘も頂戴しました」
続いて、大手食品メーカーの広報部はいう。
「完全に柳井さんに先手を打たれてしまった。今さら寄付を打ち出してもファストリの二番煎じになる。うちももっと早く決断しておけばよかった……」
義捐金の大前提は、“社会的責任”を全うするためにある。だが、これら企業人の言葉からは、異なる思惑も窺えよう。危機管理コンサルタントの田中辰巳氏はいう。
「義捐金には、本音と建て前がある。表向きはCSR活動の一環、でも本当の狙いはブランド価値の向上にあります。本来、寄付とは貰った側が発表すべきものでしょう。寄付した企業側が公表した時点でそれは事実上、企業PRの一環です」
義捐金の裏には、各企業の打算が渦巻いている。ある建設会社の幹部が、内幕を語ってくれた。
「数年前、関西地方を大型台風が襲って、たくさんの家屋が損壊したことがあった。うちはいち早く義捐金を発表して被災後も、休日を返上して、社員たちがボランティアを行なった。
すると復興気運が高まった際、住人たちが我が社に発注を依頼してくれました。善意に基づいての行動だったとはいえ、その先の営業活動を見込んでいないといえば嘘になるでしょうね」
だからこそ、今回のように被害が甚大で広範囲に及ぶ場合、その対応はおのずと慎重にならざるをえない。
大手家電メーカーの広報マンが教えてくれた。「震災翌日から、役員を横断的に集めて対策委員会を開いた。平社員からもプランを提案させ、ボトムアップ方式で対策を練りました。幸い社員の被害はなかったんですが東北には関連企業も多い。いかに彼らを励ますかに焦点を置きました」
とはいえ、このメーカーにも思惑はあった。広報マンは声を潜めていう。「明らかに幹部は6月の株主総会を意識していました。東北に工場がほとんどないため生産体制に直接の影響はない。でも、CSRを果たしていないと特に海外の機関投資家からの突き上げをくらいます。そこで、うちは外国人にも価値がわかるCSR活動をいかに打ち出すか、に頭を悩ませていました」
また、企業のなかには義捐金を税金対策と考える経営者もいるという。 企業の財務に詳しい落合孝裕税理士はいう。「災害の義捐金は、税務上は経費として計上されるので、法人税が軽減されます。払った額の約4割の税金が安くなる計算になります」
※週刊ポスト2011年4月8日号