原発事故が起きた中で、国民がいま最も知りたいのは、食品や水、空気がどれくらい危険かだろう。
今回、各地で検出された食品の放射線量のうち、特に高かったのが茨城県日立市のホウレンソウで、54100ベクレル/キログラムのヨウ素131が検出された。
では、これを摂取した人はどれくらい被曝することになるのか。ベクレルとは物質が放射線を出す量である。人間が被曝で被害を受ける量はシーベルトで表わされる。ベクレルをシーベルトに換算するには、摂取量と、放射性物質ごとに設定された「実効線量係数」という数値を掛ける。
この係数は、それぞれの放射性物質が体に取り込まれた際に、どんな放射線が、どれだけ体内に留まり、どれくらい放射線を人体に与えるか、などを考慮して決められたものである。
ホウレンソウの日本人の平均摂取量は年間6.8キログラム。ヨウ素131の実効線量係数(経口摂取)は0.000022(単位はミリシーベルト)。よって、このホウレンソウを1年間食べ続けると、約8.1ミリシーベルトの被曝量となる。
よく枝野幸男・官房長官が使う「CTスキャン○回分」でいえば、胸部CTがだいたい6.9ミリシーベルトだから、その1.2倍弱になる。
これは単純に「安全」とはいえない。というのも、人間が自然に被曝する量は世界平均で年間2.4ミリシーベルト。国際放射線防護委員会(ICRP)は、これとは別に人工的な放射線は年間1ミリシーベルト以下にすることが望ましいとの基準を設けている。実際には、CTのように1回でこれを超えてしまうものもあり、この基準には「医療用を除く」という但し書きがついているが、これは医療用放射線が安全だからではない。
当然、食品からCT1回分もの被曝をするというのは避けたいことだ。
ただし、上記の数値は原発事故直後、近隣地域で、放射性物質が付着しやすい「葉もの野菜」の数値である。このレベルの食品を食べ続けることは地元の人でもまずない。その意味で、「ただちに健康被害があるとはいえない」という評価は、まあ妥当である。
また、水道水から965ベクレル/キログラムの値も検出された。この水を1年間に700リットル(1日2リットル弱)飲めば、15ミリシーベルトの被曝量になり、これはかなり高い。
が、これも特殊な仮定を重ねた試算であり、「念のため飲用を控えてほしい」という対策も妥当ではないか。原発から放射性物質が高濃度で出続けているわけではないし、ヨウ素131の放射能は8日で半減するので、いずれ数値は下がる。そうすれば、飲用として使えるようになる。
また、東京で乳児の安全基準を超える水が見つかったが、乳児の基準が厳しいのは、小児甲状腺がんのリスクが高いからであり、成人はこの水でも問題はない。もちろん、基準値を超えている間は乳児に飲ませないほうがよいことは間違いない。
※週刊ポスト2011年4月8日号