ロシアが北方領土問題への姿勢を硬化させている。国際情勢の変化に機敏に反応し、次々と新たな手を打つロシア政府は「対日包囲網」を着々と築き上げつつあるのだ。クレムリンの論理を知り尽くす佐藤優氏が、警鐘を鳴らす。
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北方領土が合法的にソ連(ロシア)領になった論拠として、ロシア政府はこれまでもヤルタ協定、ポツダム宣言、サンフランシスコ平和条約を強調してきた。
これに加え今回は国連憲章107条を前面に押し出してきた。そこでは、〈第107条〔敵国に関する行動〕この憲章のいかなる規定も、第二次世界戦争中にこの憲章の署名国の敵であった国に関する行動でその行動について責任を有する政府がこの戦争の結果としてとり又は許可したものを無効にし、又は排除するものではない〉と定められている。
国連憲章は日ソ開戦以前の1945年6月26日に署名されているので、それを根拠に北方四島のロシアへの編入を合法化しようというのがロシアの魂胆だ。
そもそも国際連合は英語で記すと、The United Nationsだ。これは第二次世界大戦中の連合国という意味だ。戦後、日本の外務官僚は、国際連合があたかも公平公正な機関であると見せかけようとして、連合国と異なる意訳をあえてしたのだと筆者は見ている。
ロシアは「連合国」対「ファッショ枢軸国」という2項対立を作り、第二次世界大戦においてファッショ陣営に属していた日本は、歴史に対する反省が不十分なので、中国とは尖閣問題、韓国とは竹島問題を抱えているのだという言説を作り上げて日本を追い込もうとしているのだ。
このような乱暴な言説に米国の一部有識者が同調する危険性を軽視してはならない。加藤陽子東京大学教授は、〈国防長官をやったマクナマラなど、日本が真珠湾奇襲をしたために、その罪科の果てに沖縄があるのだ、などと、公開されたばかりの外交記録上で述べていますね。罪科の等価交換と考えているふしがアメリカにはあります〉(加藤陽子/佐高信『戦争と日本人 テロリズムの子どもたちへ』角川oneテーマ21、2011年、176~177頁)と指摘している。
ロシア発の対日包囲網形成の動きを全力をあげて阻止することが日本外交の焦眉の課題である。
※SAPIO2011年3月30日号