福島原発の冷却作業には東京消防庁のハイパーレスキュー隊も出動している。毒劇物災害、生物兵器テロ・放射能災害に対応する部隊である第三本部の鈴木成稔隊長(52歳)は、出動のときをこう振り返る。
「私の任務は、隊員の被曝管理でした。放射線被曝量を測定するマーカーで監視していましたが、放水を予定している3号機付近の放射線が60ミリシーベルト/時であることがわかった。
これは1時間、その場所にいると60ミリシーベルトの放射線を浴びるということ。消防庁の規定では隊員の許容量が30ミリシーベルト/時。つまりその放射線量では、30分しか作業ができないことを意味します」
さらに想定外の事態が続いた。3号機の周辺はがれきの散乱で送水車が置けないことから、急きょ手作業でホースをつなぐことになったのだ。ホースの重さは50mで100kg。それを4人がかりで運ぶ。足場は悪く危険な作業。つなぐ長さは800mにも達した。
「ここでの放射線量は、70ミリから、高いときには100ミリシーベルトあった。被曝管理は困難で、隊員ひとりが10~15分の作業となりました」(鈴木隊長)
鈴木隊長は細心の注意を払いながら、隊員の交代を告げていった。放水を開始して、目的の位置にちゃんと届いているかを微調整して確認すると、隊員は緊急脱出した。
「水が3号機の蒸気があがっているところに間違いなくかかったのを確認すると、近くにいた隊員と思わず握手してしまいました」(同前)
ミッションを終え、帰ってきたときも、最初にしたことは妻との握手だった。
「妻は、『お疲れさまでした。本当によく頑張ってくださいました』といってくれました。その夜、風呂に入って、ビールを飲みましたが、ビールはこれほどうまいものなのかなと、つくづく思いましたね。23歳の長男と、16歳の高校生の娘がいますが、『お父さんを見直した』『お父さん頑張ったね。ありがとう』と口々にいってくれましたよ」(同前)
※週刊ポスト2011年4月8日号