行方不明の親族を探そうにも、被災地の外に出ようにもガソリンがない。そんな中でとんでもない事件が起きた。
仙台市青葉区にあるガソリンスタンド『エネオス仙台中山SS』の手前には、地震発生から1週間後(18日)の早朝、給油を求める車列が1km以上にわたって続いていた。近隣住民の話。
「前夜から200台を超える車が並んでいました。大雪が降り、気温は氷点下まで下がっていたが、車の中で暖房をつける燃料も惜しかったのでしょう、ほとんどの車は無人でした。
翌朝、スタンドが開く時間に持ち主が車に戻ってくると大騒ぎになりました。夜の間に50台以上の車のタイヤがパンクさせられていたんです。みなさん、雪の中でそろってタイヤ交換をしていました」
地元警察は、「朝9時頃にドライバーの方から被害届がありました。アイスピックのような鋭利なもので穴をあけられたようでした。まだ犯人の逮捕には至っていません」と説明する。
一体、犯人は誰なのか。近隣住民によると「車列を邪魔に思った地元の人ではないか」と噂になっているという。確かに給油待ちの車列は近隣住民の生活の妨げになっていた。
「家が半壊してしまったので、荷物を運び出したり、修理を呼んだりしなくちゃいけないのに、車列が邪魔で出入りができない。交番に違法駐車じゃないかと訴えたんだけど、こんな時だからと取り合ってもらえない。苛立ちを吐き出したい気持ちはわからなくもない」(近隣住民)
被災地の不自由な生活の中で、住民らのストレスは頂点に達しているようだ。一方、被害を受けた市内在住の男性ドライバーはこう語った。
「パンクの修理をしている間に、順番を飛ばして給油をした車が何台もいた。ライバル車が減れば、品薄のガソリンが手に入れられると考えた人がいるのかもしれません」
真相は定かではないが、被害者も加害者も被災者であることは間違いないだろう。被災者同士が疑いの目を向け合う二次被害ほど、悲しい出来事はない。
※週刊ポスト2011年4月8日号