戦後最大の被害をもたらした東北関東大震災。脚本家・橋田壽賀子さん(85)は、この未曽有の大災害に大きなショックを受けたとともに、被災者たちの姿に感動を覚えたという。橋田さんは、こう語る。
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今回の大震災が起きてから10日ほど、まるで仕事が手につかない。脚本を書く力がなくなりました。
最初はテレビ画面に映し出される巨大な津波の猛威に、ただただ恐怖を覚えるばかりでしたが、時間の経過とともに、被災された人々の健気な姿に打ち震えるような感動を覚えたからです。そこには事後ではなく、同時進行のドキュメンタリーが厳然とあるではありませんか。
いま私は『渡る世間は鬼ばかり』(TBS系)の脚本を書いていますが、被災地で現実に起きている映像を見るたびに、自分の書く“創りもの”のドラマが色褪せてしまい、物書きとしての無力さをとことん思い知りました。
胸を打たれたのは、被災されたかたたちがこの窮状に堪え、誰をも何をも恨もうとせず、差しのべられる支援の手に「有難うございます」のひと言を忘れない姿です。水や乏しい食事の配給に整然と並び、寒風の中で順番を待つ人々に、日本人が持つ“人”としてのゆかしさを感じました。
※女性セブン2011年4月14日号