被害総額20兆円以上と言われる東日本大震災。地震大国の日本でハードへの投資を絞ってきた民主党政権の方針がむなしいと経済評論家の三橋貴明氏は嘆く。
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「コンクリートから人へ」。今ほどこのスローガンがむなしく聞こえるときはない。
2008年9月に発足した自民党・麻生政権は、景気対策の一環として国内の耐震化に巨額の予算を計上していた。例えば、2009年度補正予算において、全国5000棟の小中学校耐震化を目的に、2800億円を計上していたのである。
世界屈指の震災大国において、デフレという需要不足に陥っているのだ。政府が財政出動し、「耐震化という需要」を生み出すのは、至極当然の行為である。
ところが、09年8月の総選挙で政権交代を果たした民主党は、「事業仕分け」の名の下で、小中学校の耐震化予算を1000億円にまで削減してしまった。結果、耐震化工事に取り掛かれない小中学校が、全国で2800棟に達すると考えられている。
また、麻生政権は大都市における重要交通インフラ、すなわち首都高速道路などの耐震化を目的に、やはり補正予算として1211億円を計上していた。この予算についても、政権交代後に、民主党により凍結されてしまった。
その他にも、スーパー堤防事業ストップに代表されるように、民主党は「国民の安全を高めるコンクリートへの投資」のための予算を、軒並み削り取っていった。テレビで「事業仕分け」のパフォーマンスが行なわれ、国民は自分たちの安全を高めるコンクリートへの投資が削り取られていく光景を見て、拍手喝采したわけだ。
2011年3月11日。「コンクリートから人へ」などと、世界屈指の震災大国にまるで相応しくないスローガンを掲げた民主党を嘲笑うかのように、東日本大震災が発生した。我々日本国民は、自分たちが「どこに住んでいるか」という現実を、容赦なく思い知らされたのである。
※SAPIO2011年4月20日号