世界中が震災後の日本経済の行く末を固唾を飲んで見守っている。その日本経済を左右する重要な要素の一つが電力確保だが、経済アナリストの森永卓郎氏は計画停電の実施に異議を唱える。
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今の日本がすべきことは、とにかく生産活動と消費活動を建て直すことである。そうしなければ、被災地の復興資金が生まれてこない。
その意味で、東京電力による計画停電の実施と企業に対する節電要請は間違っていると私は考えている。
特に、鉄道の運行制限には大きな問題がある。電車の本数が減り、都心から離れた地域では運行が中止されているが、そもそも鉄道は省エネで、電力需要は東電全体の2%ほどに過ぎない。節電効果はたかがしれているのである。
その一方で、鉄道運行を制限したデメリットは非常に大きい。通勤できなくなる人が続出し、工場や企業は労働力を確保できなくなり、生産や営業を大幅に制限されている。電車の本数が減っているので、移動に時間がかかり、仕事の効率も下がる。会社へ遠方から通勤している人が是が非でも出社しようとすれば、自動車を利用するしかなく、渋滞が起き、ガソリンや軽油の消費が増える。そこへ、不安感から早めに満タンにしようとする人が加わり、ガソリンスタンドには大行列ができ、それが渋滞に拍車をかける。
日本の物流はトラック輸送に支えられているので、燃料が不足し、渋滞が起きると、物流も滞る。被災地ではガソリン・軽油不足で困っているうえ、物流が滞って物資が届かないという非常にまずい状況になっている。
都内では石油ショックの時のような計画停電パニックが起き、停電に備えて電池やカセットコンロ、食料を買いだめする人たちが溢れ、コンビニやスーパーの棚から商品が消えた。しかし、物流が滞っているから、補充もままならなくなってしまう。悪循環もいいところだ。
では、計画停電を実施して電力需給はどうなったかというと、実施初日の3月14日は、想定していた電力需要を最大900万kWも下回った。電車や工場を止めた効果もあるが、節電を「お願い」したら、みな節電に全面的に協力したのだ。その後も需給がひっ迫するたび「お願い」が出たが、結局、大規模停電は起きなかった。
日本人の優秀さがこんなところでも証明されたわけだが、逆に、計画停電実施を了承した菅首相は、国民を信用していなかったということだ。
国民に対して節電をお願いしたら、現行の供給能力3300万kWに対し、400万~700万kwも余ったのだから、鉄道をフルで運行させ、工場も止めないようにすることは可能なはずである。
現実に、混乱する鉄道運行に振り回され、コンビニの棚から商品が消えているのを見れば、このままでは日本経済がガタガタになるということは誰にでも理解できる。
※SAPIO2011年4月20日号