諏訪中央病院名誉院長・鎌田實氏(62)は、ガラパゴス諸島のゾウガメたちを見て、限りある生命を大切に生きて、種を絶やさないように伝えて行くことは大事な仕事だと思ったという。
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サンタ・クルス島にあるダーウィン研究所に行った。ここには、ビンタ島からやってきた『ロンサム・ジョージ』、ひとりぼっちのジョージと名付けられたオオガメがいる。遺伝子的にたった1匹になってしまったカメだ。彼が子孫を残さないと、また1亜種が世界から消える。ジョージの年齢は、100歳。必死にパートナーをつけてきた。これまでも何回か交尾が行なわれたが、いずれも無精卵でふ化に成功しなかったという。若いメスガメを入れたが、それでも失敗。現在は、遺伝子が酷似している2匹のメスを入れて共同生活させている。
「今度のメスのカメはいくつ?」と僕がナチュラリストに聞くと、「残念ながら、80歳」だという。
カメは30歳くらいで大人になり、170歳くらいまで生きるそうだ。30歳くらいのときに、交尾する習慣がついていないと、成功しないといわれていて、ジョージもそうなのではないかと考えられている。
一度スイスから動物マッサージのプロフェッショナルが来て治療をしたが、交尾には至らなかった。100歳でも習慣さえあれば、ジョージにも子孫が生まれる可能性はある。ベテランのメスがジョージを上手に導いてくれるといい。
地球に生命ができて38億年。少しずつ生命は進化してきた。ひとつひとつの生命は有限である。しかし大事なことは伝えること。限りある命を一生懸命生きて、種を絶やさないように伝えて行くことは大事な仕事だと、ガラパゴスのゾウガメたちを見て思った。
※週刊ポスト2011年4月8日号