英語の社内公用語化に動き出した楽天とユニクロを運営するファーストリテイリング。英語必須となった社員はどう対応しているのか。ここでは楽天社内実態を現役社員に聞いてみた。
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楽天は2010年6月に、三木谷浩史社長が世界27か国への進出と、海外取扱高比率70%を目指す考えを英語で記者会見を行ない発表した。全社員のTOEIC600点以上という目標を掲げている。20代社員がこう話す。
「昨年4月から英語の公用語化は実質スタートしていました。毎週月曜日の朝礼で、三木谷さんは英語で話し、続いて何人かの部長、マネージャークラスが話をするのですが、彼らも皆、英語です。内容? 最初は何を言っているのかさっぱりでした。おそらく、三木谷さんも状況を察知したのでしょう。以後、要旨が英語で一斉メールで送られてくるようになりました。今ではだいたい何を話しているか分かるようになりました」
社員食堂のメニューも英語に切り替わり、資料も英語で作成することが多くなった。社員証も英語。「ローマ字だと名前が覚えづらい」という声も。それもあってか、現在、各自がニックネームを決めるよう促されている。
「きっかけは三木谷さんが朝礼で“海外では職場でもニックネームで呼び合う”というエピソードを紹介したことでした。大抵は自分の名前をもとに考えていますが、中には“ジョン”だか“スティーブ”だか、全然本名と関係ないニックネームをつける人もいます。三木谷さん? さあ、ミックでしょうか」(前出・社員)
社員に課せられたボーダーラインはいつまでに達成できなければ解雇、といった決まりがあるわけではない。だが、現実には英語が使えなくては仕事にならない状況になりつつある。別の30代社員は言う。
「もともと、アメリカ、中国、ロシア、インドなど多国籍の採用をしていたので、社内には外国人が多く、いずれ英語でコミュニケーションをとらなくてはならないことは社員の誰もが感じていたこと。この4月からは現場のミーティングも英語に切り替わる予定です。会議をひっぱるユニットリーダーと呼ばれる立場の人は大変です。英会話スクールの早朝レッスンに行って、1コマ受講してから出社する人もいます」
会社側は英会話スクールの講師を招いて、社内に英語クラスを開講したり、英語の得意な社員を集めて“英語化推進チーム”を組み、お勧めの参考書やウェブサイトを紹介したりと、サポート態勢を充実させている。
前出の社員もiPhoneのアプリを使って通勤中に英語の勉強を欠かさない。お勧めは海外ドラマ・映画の英語字幕だという。
「英会話の勉強用に、全編に英語字幕をつけたソフトが売られています。生きた英語が学べます」
率先する三木谷社長の英語力は記者会見からも明らかだが、社内で日本語を使うことはないのか。別の社員は言う。
「社長と話す機会がある社員はそれほどいませんからわかりませんが……毎月、ホテルで社員の誕生日パーティーを開くのですが、そこでも三木谷さんは社員と英語で話していました。話しかけられた社員は皆焦っていますよ」
2020年には海外店の比率を60%にする予定のファーストリテイリングも、昨年4月から英語公用語化が始まった。半年に1回、TOEICを受けて、700点以上を取るまで受け続けなくてはいけない。いずれ会議も英語で行なわれる予定だ。
大手英会話スクールと契約し、社員一人ひとりにカリキュラムが組まれている。社員は自宅のパソコンからサイトにアクセスしたり、電話したりして英会話の勉強ができる。
「本格導入されてからは社員間で“英語やってる?”“勉強時間とってる?”などという会話が交わされています。周りを気にしつつ、各自が自己責任・自己完結で勉強しています。私はまだまだのスコアなので、これまで以上に努力しなくてはいけませんね」(30代の社員)
この社員は1週間に最低5時間は勉強するようにしている。通勤中はiPhoneのアプリで単語を覚え、ちょっとした空き時間に勉強できるよう問題集を持ち歩いている。
意外なのは、40~50代に英語を話せる人が多いという点。「その世代は中途採用で他社から来た人も多く、海外勤務の経験があったりして、ベースが高い」(前出・社員)
※SAPIO2011年4月20日号