震災後、新聞紙面の変遷について、メディアウォッチャーとして知られる八木秀次・高崎経済大学教授が注目していた点があるという。「朝刊一面の下段の新聞広告がいつ復活するか」だ。
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震災報道の初日の12日付から、一貫して一面に通常通りのスペースで広告を載せ続けたのは日経だけで、ある意味、日経らしくてブレていない(笑い)。
それに対して遅かったのが読売と朝日で、示し合わせたように3月25日付から復活させた。毎日はやっぱりユニークで、ほんの小さなスペースに圧縮し、初日の12日付に玩具メーカーの広告、13日付でNTTドコモの災害用伝言板の広告を載せ、14日付から通常のスペースに戻していました。
要するに、一面広告の復活というのは、“非常時”から“平時”に戻るための第一歩なんです。広告は早く復活させたい。しかし、テレビでも公共広告機構のCMばかり流れているように、何か自粛しなければいけないような雰囲気があるから、どこで折り合いをつけるか。ここに各紙の“良心と打算”が現われているわけです。日経はこのジレンマから逃れるために、最初からシレッと載せている。
毎日は「国難」や「国家的危機」という言葉を使わなかったように、非常時に見せかけて、実は最初から平時なんです(笑い)。
新聞社は本心では早く平時に戻りたいと思っているはずです。安否情報や支援物資の情報などを伝えるには、速報性という意味ではテレビのほうが圧倒的に適していて、生活への密着性、ローカル性ではネットの方が適している。しかし、この大災害に際して、自分たちがどういう役割を果たすべきか、いまだに見えていない。
それを象徴している記事が、産経が3月20日付から始めた「支援掲示板」というシリーズです。第1回目は新聞の活用法として、夜寒いときに服の中に入れると温かいとか、インクを吸っているので焚き火をつけやすいとか書いてある。これは新聞ではなく「新聞紙」の活用法で、自殺行為じゃないのか(笑い)。私は産経の記者に、「それなら朝日の方が厚いからいいじゃないか」といいました。
まあ、これは冗談ですが、新聞の役割というのは、日本を再建するうえで必要な政策を提言したり、さまざまな情報を集約して読者に対して今はこうすべきだとアドバイスをしたりすることだと思います。そういった記事がまだ見当たらない。これは深刻です。
※週刊ポスト2011年4月15日号