「小さいころから生き物が大好きで、カブトムシやカエル、ヘビ、ミミズなど、捕まえられるものは何でも捕まえて飼っていました」
そういって微笑むのは、驚愕かつユニークなペット治療現場を綴った奮闘記『珍獣の医学』(扶桑社、1575円)の著者で獣医師の田向健一さん(37)だ。
「実家は愛知県なのですが、両親はともに田舎出身だったから、私が野山で生き物と遊ぶのも自然だと思っていたみたいですね」
田向さんが獣医師という仕事を考えるようになったのは中学生のころ。
「動物が好きだったので、動物にかかわる仕事がしたいと漠然と思っていました。当時、ペットとしては珍しかった中南米産の“グリーンイグアナ”がどうしてもほしくなったんです。それで、東京のペットショップから取り寄せて飼い始めたんですが、変わったペットは病気になっても、診てもらえるところがなかったんですよ。だったら、自分で治せるようになればいいかなと」
“ミドリちゃん”と名づけられたそのグリーンイグアナは、大切に育てられ、最後は田向さんが自ら治療した。しかし、そんな田向さんも大学にはいった当時は驚いたそう。
「日本の獣医療の世界では、犬猫以外のペットは、十把ひとからげに“エキゾチックペット(珍獣)”と呼ばれています。モモンガもヘビもトカゲも鳥もウサギも一律に。大学での診療の対象は、家畜がメイン。珍獣の治療法どころか、猫に関する授業すら、私のころにはほとんどなかった。だったら珍獣の医療も自分でなんとかするしかないなあって」
卒業後、エキゾチックペットも診察する動物病院で修業を重ねた。
「獣医師になったばかりのころは、見たこともない動物がやってくることも多かったですね。でも、ペットとして売られている以上、病気になったら飼い主さんは、“動物病院”へ連れてくるわけです。変わった動物好きが高じて、獣医にまでなったからには、どんな動物でも治したいじゃないですか…」
これまでに診察した動物は100種類を超えるという。飼い主の不注意でシッポが切れそうになったウーパールーパーの皮膚の縫合手術や、卵詰まりのエボシカメレオンの卵巣摘出手術、貧血のフェレットの輸血や脱水症状のアリクイなど、想像の範疇を超えた珍症例には驚くばかり! “彼ら”と対峙するには開拓者精神が不可欠では? と思ったら、「“探検”がライフワーク」というから頼もしい。“なんとか治したい”というその気概は、カエルの難病の治療法やカメの甲羅切開法などの新たな治療法などを編み出し、いまや海外から治療の問い合わせが来るほどになっている。
※女性セブン2011年4月21日号