「絶望から再生へ」――大切な人の死を乗り越えるプロセスを、作家の山藤章一郎氏が追った。
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私たちが現下の災厄に学んだものは大きい。ザビエルの日本印象記ではないが、日本人はかくも美しい。
中井久夫・神戸大名誉教授、元兵庫県こころのケアセンター長が〈阪神淡路〉で体験した日本人の〈美〉は尊い。
大学病院の指揮官からナースまで苛酷な条件下の自分たちの〈救急活動〉に、中井氏は、ソ連軍にリーダーを拘引される日本軍捕虜の組織をかさねた。捕虜たちはリーダーが拘引されても崩壊しない。すぐ、次のリーダーを組織する。ドイツ軍は指揮官を失うと、組織はたちまち崩壊したと。
なかにはコンビニのレジ、自販機を襲うなど醜怪な者がいなくはなかったが大部で日本人は美しい。
中井氏はつづる。
「患者の動揺はいっさいなく」「避難所での困苦欠乏と過密に耐え」「自分の家一軒だけが無事で申しわけないと自分を責め」「翌々日にはハガキが配達され」「二日遅れでゴミ収集車が来て」「道端に糞便も小便跡もなく」「店を開いた人は争って値下げをした」
このようすはさらに詳しく「東北関東大震災下で働く医療関係者の皆様へ」としてインターネット上で公開されている。(http://homepage2.nifty.com/jyuseiran/shin/)
〈神戸〉の人はどう危機に対応し、〈悲嘆のプロセス〉を経たか。ぜひ開いてみてください。
※週刊ポスト2011年4月15日号