東日本大震災直後、1米ドル=76円25銭まで急騰した外国為替相場は今後どのような動きをみせるのか。トップディーラーとして活躍後、松田トラスト&インベストメント代表を務める松田哲氏が分析する。
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福島原発事故という不安要素は残るものの、ドル/円は76円~86円のレンジ内で推移していくと思われる。86円のレジスタンスレベルを越えていかない限り、ドル安円高トレンドは続いていると見てよい。ユーロ/円、英ポンド/円などクロス円(米ドル以外の通貨と円の通貨ペア)でも円高トレンドが持続するだろう。
3月11日の地震発生後、戦後最高値の76円台まで円高が一気に加速した背景には、期末(3月末)要因である通常のレパトリ(日本の企業が期末に、海外での利益を本国に送金すること)や日本企業による海外資産の売却に加え、大量の投機的な資金が流入したことなどが挙げられる。ただし、実際には、79円を割り込んだ78円、77円付近に大量の損切りオプションが入っていたため、雪崩現象が発生してしまったのではないか。
一方、世界の市場を見渡すと、不安定な中東・北アフリカ情勢も背景にリスク回避のための複雑な連鎖が起きている。東日本大震災、福島原発事故だけでなく、欧米のリビアへの軍事介入も相場を動かす大きな材料になっているのだ。多国籍軍によるリビア空爆は事実上の戦争であり、緊迫化するリビア情勢に、ほぼ全てのマーケットでフライ・トゥ・クオリティ(質への逃避)が加速しているといってよいだろう。
通常のリスク回避の場合、たとえば株式なら債券に投資マネーがシフトする。ただ、今は原油価格などの上昇から各国でインフレ懸念が出てきているため、債券には向かえない。また、金利が上昇しても債券は下落するため、ユーロなど利上げが予想される国々の債券もやはり買えないだろう。金融緩和を続行するアメリカには利上げの見通しはないが、インフレ懸念があり、米国債にも単純には向かわない状態だ。
世界中の投資家がリスクの回避先を求めており、商品市場や株式市場と比較して動きが静かだった外国為替市場でも2月下旬ごろから、避難通貨としての円買い、スイスフラン買いが起きていた。
※マネーポスト2011年5月号