夏場にオフィスで冷房が使えないと暑さで仕事にならない、そんな悪夢が現実になろうとしている――と、囃し立てる声がある。だが、気分による悲観主義は何も生まない。電力危機を深刻に語るのは容易いが、すでに前年同日比3割減の節電を達成している努力と、何度も逆境を乗り越えてきた創意工夫の国民性にもう少し注目してみてはどうだろうか。楽観主義は常に意志的である。
本格的な春の季節を迎えて気温が上昇し、平日でも計画停電が回避される日が多くなった。この時期のピーク時間帯(午前9時台と午後6時台)で前年の7割程度の需要量に抑えられているのは、震災後に国民の間で共有した高い節電意識の成果である。現在3800万キロワットの最大供給電力も少しずつ上積みされているところなので、大きく気温が下がらない限り、4月中の計画停電の実施はなさそうだ(ちなみに気温が1度下がると需要は70万キロワット増えるといわれる)。
目下の焦点は、夏の供給電力不足をどう補うかである。猛暑時の需要はピーク時で6000万キロワットに達すると見込まれるが、夏までにせいぜい5000万キロワット程度の電力しか確保できそうにないと伝えられる。1000万キロワットの需給ギャップをどう埋めるかが最大の課題だ。
「大停電によって猛暑に冷房が使えなくなり死者が出る」などと夏場に首都圏が大混乱に陥るような報道があるが、現実を踏まえない極端なシミュレーションである。午後1~3時というピーク時の需要をいかにやりくりするかに命運はかかっている。
政府は企業に対して節電についての「自主行動計画」を策定するよう要請し始めた。経済産業省は電機や自動車など製造業、国土交通省が鉄道や物流など運輸業に要請している。
日本経団連の米倉弘昌会長も3月29日の会見で、「産業別に自主的な節電計画を策定し、4月中に全体計画を取りまとめる」と表明。企業が一定の枠内で電力の使い方を決められる総量規制ではなく、電力需要のピークをずらす対応を産業界がとるべきだと主張した。
すでに多くの企業が計画停電に向けた対応を始めている。安定生産体制を守るために、早朝や夜間の操業を増やし、操業時間が停電にかからないようにする。注文をこなせなければ休日操業で対応する。ほかにも停電前に電気を使用する組み立て作業を進めておいて、停電中に製品の箱詰めを行なうなど、時間の工夫で停電の影響を最小限に留める企業が増えている。
こうした努力をもって産業界の総意で取り組めば、ピーク時の電力需要を大幅に抑制できるはずだ。
※週刊ポスト2011年4月15日号