今、国際舞台で活躍している人たちも、最初から英語“ペラペラ”だったわけではない。皆、英語と格闘し、悩み、苦しんだ過去がある。英語を操る多くの日本人研究者に、彼らが体験した「英語の壁」についてインタビューした英文校正サービス会社代表の古屋裕子氏が、その秘話を公開する。
* * *
英語の「読み書き」に関しては、誰もが受験で経験したような困難を、正攻法で乗り切られたことがよく分かりました。つまり、英字新聞や専門書の原文を「とにかく読む」、「単語をひたすら暗記する」などの努力をコツコツされた方が多かったのです。
養老孟司さんは40数年前、博士論文で初めて英語論文に取り組み、「気の遠くなるほど膨大な時間を費やした」そうです。
こんな風に語っていました。
「昔はインターネットもありませんから、英文を書くには、ほかの文献を読むしかない。自分の言いたいことに近いことを言っている箇所にぶつかるまで探して、そこから表現を拾ってくるんです」
運良くいい表現に出会えればいいのですが、出会えないままに知っている表現をつなげて原稿を作り、作業を進めていると、別の機会にハッといい表現に出会うことがある。
「そうすると、いったん論文を作り上げても、当時は修正ができないタイプライターですから、何度も頭から打ち直すことになるんですよ。これが大変。もう、英語なんてばかやろうと思うんですよ」
養老さんは、こう笑いながら振り返っていました。心からの叫びだったと思います。
とはいえ、手間をかけた作業の繰り返しで、英語のリズムや言い回しを身に付けていかれたのでしょう。養老さんは、繰り返すことで脳に定着させ「英語の基礎体力」をつけることが大事だと語っていました。ちなみに、ご自身2稿目の英語論文では、査読者に「ネイティブの英語だろう」と言われるくらい上達したとのことです。
※SAPIO2011年4月20日号