とかく日本企業の常識を飛び越えがちなソフトバンク、孫正義社長の言動。その評価は毀誉褒貶相半ばしてきた。
だが、「被災地に100億円の寄付をしたい。引退まで毎年のソフトバンク代表取締役報酬(2009年度は約1億800万円)も寄付する」との表明には驚きとともに賞賛の声が広がっている。
ソフトバンク社員がいう。
「社長はこれまで発言をするたびに『スタンドプレーだ』と批判されてきた。東日本大震災では『震災孤児は18歳まで携帯無料』と発表するや、『自社携帯のPRだ』というご指摘を頂いた。でも、義捐金に関してはそうした批判がほとんどこない。今まで社長の言動に振り回されてきた感のある我々も(苦笑)、“やはりうちの社長は別格だ”と士気を高めています」
義捐金の発表は同社社員にも青天の霹靂だったという。ある幹部が明かす。
「社長が義捐金のことを僕たちに伝えたのは発表数日前ですよ。最初に聞いたときは『えっ本当ですか?』と聞き返してしまった。社長は震災直後に福島や埼玉の避難所を視察しながら、『一企業の社長としてではなく一個人、一日本人としてできることはないか』と思案していたそうです」
企業経営という“私”よりも国難を救うべく“公”を優先させた。経営コンサルタントの小宮一慶氏は、その姿勢をこう指摘する。
「孫社長や震災直後に10億円の個人義捐金を表明した柳井正会長(ファーストリテイリング)ら創業経営者は、いってみれば会社と一緒に心中する覚悟を持っている。それは一見、身勝手にも思える。でも逆説的ですが、企業は社会の公器。社会が危機なら利益を得てもしょうがない、という企業の大原則を彼らは体現しているんです」
楽天・三木谷浩史社長も10億円の個人義捐金を表明した。三木谷社長は阪神大震災で故郷が被災したことが起業のきっかけという。震災後、宮城県庁を訪れ、
「阪神大震災とは全く違う災害だと感じた。できることは可能な限り協力する」と、企業の立場を越え、自治体や行政に対しても長期的なサポートを約束した。
出る杭は打たれるとばかりに何かにつけて批判を浴びてきた3人だが、震災を境に財界におけるプレゼンスも高まっている。
※週刊ポスト2011年4月22日号