地震による電力需給の逼迫が首都圏を直撃している。節電啓発担当の蓮舫大臣はサマータイムの導入を検討したいと語ったが、果たしてその効果はどの程度のものなのか、住環境計画研究所所長の中上英俊氏が解説する。
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サマータイム(夏時間)が考案されたのは1908年。英国議会に「日光節約法案(Daylight Saving Bill)」が提出されたことに始まる。夏季に時刻を1時間進めることによって、照明のために使うエネルギーを節約できる。
その後、サマータイム制度は西ヨーロッパを中心に採用され、2度のオイルショックを契機に広く普及し根づいていった。現在、OECD(経済協力開発機構)加盟国34か国では、日本・韓国・アイスランドを除くすべての国々が実施している。
日本にサマータイム制度が導入された場合、どの程度の省エネ効果が期待できるのだろうか?
まず、私たちの試算(2008年3月推計)では、業務用照明および冷房の需要が減少。一方、家庭では(まだ明るい時間帯に帰宅する人が増えるため)冷房用の需要がやや増加するものの、トータルとして電力需要を大幅に削減する結果となった。
具体的に述べると、サマータイム制度の省エネルギー効果(短期直接効果)は、原油換算にして年間約91万キロリットルという結果が出た。この数値は340万キロワットの太陽光発電システムの発電量に相当する。
私は省エネ関連の様々な審議会などの議論に加わってきた。そこでは建物の設計思想を変える、省エネにつながる建材や電化製品を開発する、などの方策が練られてきた。それらはいずれも実現すれば大きな効果をもたらすと考えられているが、この夏に間に合わせられる策は、「時計の針をずらす」というサマータイムしかない。
次に重要なのは、サマータイム制度の導入が省エネ行動を促す「アナウンスメント効果」が大きいということだ。この制度には「関係のない国民」が一人もいない。ただごとではない、ということを広く周知できる。つまり、「意識」に訴えかける効力が大きいのである。それをうまく生かすことができれば推計値以上の省エネが可能になるだろう。
実際、日が差している時間が長くなれば、オフィスの照明を間引ける。それを「薄暗い」ではなく「今までが明るすぎた」と意識を転換させる。地下鉄駅構内などでは既に始まっているが、オフィスや商業施設でも実現できないか。
これは、夏場において重要な第3の節電ポイントにつながる。電気を使うことは、「熱を発生させる」ことと同義だ。100ワットでも10ワットでも使用された電力は最終的に熱となる。照明やパソコンを使い、その熱を冷房で冷やすという“二重の電力使用”が夏には発生する。
逆に、サマータイム導入に伴い「太陽の光を有効活用する」という意識が浸透すれば、“二重の節電効果”が生まれるということだ。電気を消す、空調の設定温度を見直す、といった意識は震災を機に高まりつつある。サマータイムによる省エネも、その延長線上にあると言えよう。
さらに言えばサマータイムの導入により、太陽光発電の有効利用も可能になる。夏場に電力需要がピークに達するのは、前述の通り午後2時から3時にかけての時間帯。一方、太陽電池は南中時刻の正午から1時までの間に最も発電効率が高まる。つまり、サマータイムで時計を1時間早めれば、太陽電池が最も発電する時間帯に、電力使用のピークを近づけることができる。
※SAPIO2011年4月20日号