震災による新たな“犠牲者”が相次いでいる。
4月5日、毎日新聞が岩手県大船渡市在住の30代の男性が、家族4人が行方不明になっていることを苦に練炭自殺したと報じた。同県山田町では津波で家を流された男性が自殺したと見られ、原発事故の影響で政府が福島県産野菜の一部を「摂取制限」にした翌日には、福島県須賀川市の野菜農家の男性が首を吊って自ら命を絶った。
しかし、これらは氷山の一角である可能性が高い。
「自殺者数などの統計については、集計が出ていないのが実情。行方不明者の捜索に人員を投入しているため、統計のための人員を割けない。毎日新聞の報道にしても、事実かどうか確認が難しい。
当県の警察官が被災現場を回って各種の相談に応じたり、女性警察官が各地の避難所を回るなど、我々のできる範囲でなんとかやってはいるのだが……」(岩手県警生活安全企画課)
福島県精神保健福祉センターの「心の健康相談ダイヤル」には、震災発生から3月28日までの間だけでも、109件の相談が寄せられたという。
「うち震災関係が全体の56%に当たる61件。“子供と心中したい”とか“こんなことなら死んだ方がいい”といった自殺をほのめかす内容の電話もある。つい先日は“今から死にます”という電話もあった。このケースはなんとか説得できましたが……。もともと精神的に不安定な人は、地震の影響で正常な判断ができず、極端な考え方になっているのかもしれない」(同センター)
実際に、被災者のなかには自殺願望を口にする人も増えているという。
「この前も夫を亡くしたおばあさんが、“オラも父さんのところにいぎてぇ”というので、何とか止めたが、こんな生活が続けば俺だってどうなるか分からないよ」(避難所生活を送る50代男性)
阪神大震災では、震災後1年間で32人の自殺者が出たと兵庫県警が発表したが、実際にはその倍はいると見る専門家もいる。周囲の目を気にして自殺であることを明かさない遺族も多いからだ。
阪神をはるかに超える被災者を出した今回の大震災。“心の復興”も急務である。
※週刊ポスト2011年4月22日号