八百長に関与したと認定され引退勧告や2年間の出場停止処分を受けた23人の力士、親方は相撲協会から事実上の「追放処分」を受けたに等しい。厳しい処分は協会執行部にも及び、八百長力士を出した部屋の親方が責任を取る形で、協会理事の北の湖(元横綱)、九重(元横綱・千代の富士)、陸奥(元大関・霧島)の3親方が理事を辞任することになった。
一連の調査と大量処分を終えた放駒理事長(元大関・魁傑)は6日、開催の可否を検討していた夏場所を、予定通り5月8日から両国国技館で開催することを発表。天皇賜杯をはじめ表彰はすべて辞退、入場料も無料とした「技量審査場所」である。
「文科省主導の調査に従って放駒理事長が苦渋の決断をしたのは事実だが、それもこれも公益法人格を死守するため。追放された力士たちは、いわばその“人柱”にされた」(スポーツジャーナリスト)
角界を支配する権限を持つ協会理事の座から3人が追われたことは重大な意味があった。出羽海一門の北の湖親方と高砂一門の九重親方は、ともに次期理事長候補としても名前が挙がる一門の有力者である。
次期理事候補と目されていた親方たちも処分の対象となった。立浪一門の伊勢ヶ濱親方(元横綱・旭富士)は、本誌が報じた十両・安壮富士の八百長疑惑が“クロ”と認定されたために次期理事の目が消えた。
同様に九重の後継者だった八角親方(元横綱・北勝海)も、弟子の谷川親方(元小結・海鵬)と幕下・保志光の八百長関与で沈没。出羽一門でも、武蔵川前理事長(元横綱・三重ノ海)の後継と見られていた春日野親方(元関脇・栃乃和歌)が、八百長暴露の張本人・竹縄親方(元前頭・春日錦)の師匠として処分を受けた。つまり、各一門が抱えていた年長有力者がそろって第一線から退場したのだ。
ある親方は唇を噛む。
「これで角界の一門制が崩壊する。何としても、これだけは避けたかった」
一門制とは、簡単にいえば角界の派閥である。出羽海、二所ノ関、立浪、時津風、高砂と5つの一門が存在し、各一門の代表者が理事として協会運営にあたる。年間事業収入は約100億円にものぼる巨大組織・日本相撲協会の利権もこの5つの一門で山分けされてきた。
「八百長問題発覚以降、親方衆の中には、“たとえ文科省から公益法人の資格を取り消されたとしても、これまで角界を運営してきたやり方や伝統を守るべき”という意見が出ていた。だがそれは通らなかった。来年2月に行なわれる理事改選は荒れる」(前出の親方)
ここでいう“伝統”とは、旧来の一門による利権構造に他ならない。それが崩れたことで、角界は群雄割拠の様相なのである。
※週刊ポスト2011年4月22日号