国民の生命・財産が懸かった原発対応では、菅直人首相が自らの政権維持を優先させて国家を危機に陥れた。その“証拠”がある。
震災2日目の3月12日、午後3時から震災対策の全党首参加の与野党党首会談が開かれた。直前の原子力安全・保安院の会見で、「炉心溶融の可能性」が指摘されており、その質問が出た。
「これはメルトダウンとはいわない。大丈夫です」――菅首相はキッパリ否定してみせた。
会談の途中で、秘書官から首相にオレンジ色のメモがわたされた。福島原発1号機で起きた水素爆発を報告するものだったが、菅氏は会談の席でそのことには一切触れずに、最後も「大丈夫なんです」と繰り返した。水素爆発が公表されたのは数時間後だった。
挙国一致での危機対応を話し合う党首会談の場でさえ、この総理大臣はウソをつき、事故の重要情報を隠したのである。それが危機管理上、必要な情報管理だったとはとても思えない。各党党首が事態の正確な情報を共有する方が、非常時の政治の決定を早くするためには重要なはずだ。
情報を隠したのは、全党首の前で、「大丈夫だ」と公言した自分の誤りを認めたくないという自称“原子力の専門家”としての小さな自尊心のためだったのか。
そうではあるまい。その後の大連立への姿勢を見ても、最初からこの人の頭には、震災を利用して野党を抱き込み、政権を延命することしかなかったのだろう。彼にとってこの天災は“天恵”に見えていたのだ。
しかし、菅首相が自分の判断の誤りを認めてその後も軌道修正しようとしなかったことが、1万1500トンもの放射性汚染水を海洋投棄することになり、世界の非難を浴びる結果を招いた。そして、処理を間違い続けて国民からの信頼は地に墜ちた。自業自得というには、あまりにも国の損失が大きすぎた。
※週刊ポスト2011年4月22日号