【書評】『潜入ルポ 中国の女 エイズ売春婦から大富豪まで』(福島香織著 文藝春秋/1500円)
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毛沢東は新中国を建設するうえで「婦女能頂半辺天(女性が天の半分を支えている)」というスローガンを掲げた。しかし、中央の共産党内は別にして、内陸部の農村では、今でも儒教的な男尊女卑の考え方が支配的である。
本書は産経新聞の名物記者と呼ばれた福島香織氏が、約6年半の北京駐在中に取材した“中国の女”たちのルポルタージュである。女性ならではの視点と独特の筆致で、虐げられても強く生き続ける女たちの姿を描き出す。
村民の半分がエイズ感染している河南省の“エイズ村”では、売血でエイズに感染・発症しながら、男子(家宝)を出産した女性に会う。男子を産まないと、女として認められない風潮があるからだ。
〈私は女に生まれて、幸せだと本当に思ったのは、家宝を産んだ瞬間だけだった〉
死を賭しても男子を産むことで、女の意地を示すのである。
300元で花嫁として売られたチワン族の女性は、家政婦として才覚を現わし、夫より稼ぐようになり、800元を払って離婚した。なのに、今もその元夫や2人の子供と一緒に暮らしている。
〈ただ、はっきりさせたかった。私はもう売られた花嫁ではないと〉
昔に比べれば、女性の地位は向上したが、決して男尊女卑がなくなったわけではない。しかし、本書に登場する売春婦や人権活動家、セレブ、作家など様々な階層の中国の女たちは、想像を絶するような苦境をものともしない強さを見せる。
〈他者を受け入れ、自分の血肉とあわせて新たな命を生み出すのは、古今東西、女の性だ〉
中国という国を本当に変えられるのは女たちかもしれない。
※SAPIO2011年4月20日号