東日本大震災は日本経済に大きなダメージを与えたように見えるが、「その背後で景気回復への足がかりが世界規模で進行している」というのは、元ドイツ証券副会長・武者陵司氏だ。武者氏が震災後の経済動向について分析する。
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景気および株式市場の先行きに自信が持てない人の多くは、雇用状況が改善していない点を過大視している。雇用が改善しない限り、個人の所得は増えず、したがって先進国のGDP(国内総生産)の過半を占める個人消費は低調なまま――そんな状況で景気回復が進むわけはない、という見方である。だが、私にいわせれば、そうした見解は雇用関連統計の表面上の数字しか見ていない、といわざるを得ない。
例えば、米企業の場合、サブプライムおよびリーマン・ショック以降、過去最大のリストラを断行し、過去最低水準の労働分配率を記録したが、その環境下で史上最高益を更新している。つまり、労働生産性が驚異的に高まったのである。こうした、グローバル企業の合理化、スリム化による飛躍的な労働生産性の上昇は、ドイツ、日本の企業にも共通している。
企業業績は、資本主義経済が成長するためのメインエンジンだ。そして、企業業績が良くなるには、生産性の向上が不可欠なのである。したがって、ここ数年で生産性を大幅に改善したグローバル企業を擁する主要国の景気は、好調が持続する可能性が高く、いずれ雇用も改善してくるだろう。
日本は、先の震災によって、さまざまな経済的打撃を受けたが、直接的な被災に遭った地域の経済活動の規模などを勘案すると、マクロベースでの実体経済の回復を妨げるものではないと考える。
問題は原油価格の動向だ。福島の原発事故によって、世界各国でエネルギー政策の抜本的な修正が行なわれると、原油価格はさらに上昇し、高止まりする可能性がある。現状、原油相場は落ち着いており、先行きについて予断は許さないものの、日本企業の業績回復→景気回復というシナリオを変更させるには至らないだろう。
※マネーポスト2011年5月号