ところで、健康被害というなら、放射線だけを悪者にするのはアンフェアだ。
医学の定説では、放射線を100ミリシーベルト浴びると、がん発生率が0.5%程度上がるとされている。日本人はほぼ半数ががんに罹るので、仮に全国民がこれだけ被曝すると(これは現在の福島原発作業員レベルだが)、日本のがん発生率が50%から50.5%に上がるという意味である。
放射線は、国際がん研究機関(IARC)によって最も危険度が高いと分類された107種類の発がん因子の一つだが、同じランクには、「アルコール」「タバコ」「ニッケル化合物」など身近な物から、「更年期以降のエストロゲン療法」や「経口避妊薬の組み合わせ」などの医療行為、さらには「日焼けマシン」まで入る。
例えばタバコについては、国立がん研究センターの資料によれば、男性で喫煙する人は、しない人に比べてがん死亡率が2倍、特に咽頭がんでは5.5倍、肺がんでは4.8倍である。これは疫学調査によって判明した明らかなデータなので、「100ミリシーベルト」よりずっと怖い。
もちろん、がん発生率が0.5%上がることを問題ないとはいえない。すでに福島原発では、100ミリシーベルトを超える被曝をしている作業員が複数いる。「決死隊」「名誉の被曝」などと称えればよいという話ではない。交代、撤退を判断すべき段階にきているのではないか。
※週刊ポスト2011年4月22日号