おぐにあやこ氏は1966年大阪生まれ。元毎日新聞記者。夫の転勤を機に退社し、2007年夏より夫、小学生の息子と共にワシントンDC郊外に在住。著者に『ベイビーパッカーでいこう!』『アメリカなう。』などがある。おぐに氏が、米国の最近の教育事情を解説する。
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「勉強や習い事のせいで睡眠時間が削られ、子供たちが心身を病んでいる」「忙しすぎる子供に自由な時間を!」……さて、これ、どこの国の話でしょう。一昔前の日本? いえいえ。実はアメリカの話なの。
今、アメリカの教育熱心な親を震え上がらせているのが、ドキュメンタリー映画『Race to Nowhere』。自主上映の輪が、口コミだけで全米中に広まったんだって。
監督は3児の母親。優等生だった近所の13歳の少女の自殺にショックを受け、高校生や親、教育者へのインタビューを開始。子供が学校や親から過大なプレッシャーをかけられ、追い詰められていく様子を描いている。
映画への反響はすごい。宿題の量を減らすよう学校に申し入れたり、子供の習い事を減らす親が続出。中には「テストは百害あって一利なし。我が子には受けさせない」と州の標準テストを拒否する運動まで!
確かに、この国の中高生って、気の毒なくらい忙しい。良い大学に行くためには、勉強からスポーツ、芸術、社会奉仕までぜーんぶ秀でてなきゃダメだから、登校前や放課後は音楽やスポーツの習い事、ボランティア活動で大忙し。夜は寝る間を惜しんで学校の宿題。眠らずに済むよう、ドラッグに手を染めちゃう子もいるらしい。
良い大学に行きたいなら高校成績はオールAが最低条件。より難易度の高い授業単位をかき集め、「オールA」以上を狙うのも当たり前。日々の宿題や授業態度まで成績に反映するから、レポート1本手を抜けない。
1教科でも成績が落ちると、志望校進学も奨学金も全部パー。だから高校生の6割以上がカンニングを経験してる、なんてデータも。日本みたいに「高校時代は部活命! 1年浪人して有名大学に合格」なんて、アメリカじゃありえないみたい。
(「ニッポン あ・ちゃ・ちゃ」第141回より抜粋)
※週刊ポスト2011年4月22日号